The lazy night of two foreigners - Jin
「むぅ……重い、のうっ」
よっこいせと、ずり落ちそうになるのを背負い直し、また歩き始める。

夜、この国に着いてから初めての夜。勇者は儂を連れて行くと言った。
うれしい、というか、話があまりに上手く行ったもので戸惑いすら覚えた。
それでも疑っていては始まらぬと、今は言われたとおりのことをしている。こういう、人の使いなどするのはいつぶりじゃろうか。そんな道を歩く。
「……どうしたものかのう」
参ってしまった。酒も酒場に持ち込んで勝手に飲んでいたものであるし、路銀の持ち合わせなど端から無い。まぁ要するに儂の寝床も、メシも無いんじゃ。荒波の中でなく、陸で寝られるんじゃから贅沢は言えんのだがのう。
それでなんとなく思い出して、ふと立ち止まる。
袖に手を突っ込んでみると、海の塩気に当てられてすっかりしなびた干し肉が2,3切れ出てきた。
確か漂流してしまったときの最後の食として残しておいたものじゃ。
「……おぇっ……」

……美味いとは、到底かけ離れた味がした。
いかんのう、未練じゃが後で捨ててしまうか……。


振り返ると、青い髪に顔を埋めて眠る少女の顔がある。みすぼらしい男が顔の紅いおなごを背負って歩くなどと、他人から見れば相当怪しかろうなこの光景は。と、
「……んぁ」
背中から曖昧な声と共に、甘ったるい、安酒の匂いがする。このおなごのものであるのに間違いはなさそうじゃ。自然、呆れからか、溜息を吐く。
「全く、酒に飲まれるにはまだ早かろうて」
「そんなこと……ない、れしょ」
む?起きておったのかこやつ。もう一度振り返ってみると、紅い目を擦りつつ眠そうに欠伸をしている。
「ろれつが廻っておらんわ。今日は大人しく横になっているんじゃな」
「……なんれあんな飲ん、ふぁ……あ」
「眠いのなら寝ておれ、じき城に」
着くはずじゃ、と言いかけてやめた。なにか忘れているような気がしてならん。
はて、何じゃ?ひどく肝心なことを忘れておるような。



お。


おお、儂としたことが最も大事なことを聞き忘れておったわ。困ったのう、これでもまだ二十と二年しか生きておらんというにもう呆けておる。
「おい、眠いところ悪いのじゃが、ひとつ問うても良いかのー?」
「なんれふ……?」
「その、あれじゃ、城は一体どこにあるんじゃ?」
ためらいがちに聞くと、ふてくされた声で、
「……あっち」
「……どっちじゃよ?」
いいから指くらい差せい。




「間違いないんじゃな?」
「は、はぁ……」
「儂は確かに城の前で、お主はそこに立つべくして立っておる門番じゃな?」
「は、はぁ……あの、どうぞ?」
おずおずと開いた門の中へ招くので、とりあえず疑っても仕方ないの。
「かたじけない」
入ると、祖国には見られない大きさの、石造りの広間。それでやっと安堵の息を吐くことができた。


アリアハン城……ここまで辿り着くのにどれほどの時間を要したことか。
こんなに遅い時間じゃし尋ねようにも人がおらぬには苦心した。人を捜して半刻ほど歩き回り、跳ね橋のたもとで見つけた人に、「あんたの目の前にあるじゃないか」と言われて思わず脱力したもんじゃったわい、ったく。
そして今度こそぐっすり寝てしまった少女を、案内された部屋にある、ふかふかの布団に寝かせた。どうも案内してくれた世話役の話を聞く限りここがこやつの部屋らしい。客員のような者とは聞いておったが城住まいとは贅沢な。
まぁただこうして立っておっても仕方ないものじゃし、そこにあった丸椅子に腰を下ろして一息つくことにした。女とは言え、やはり長い時間背負っていると、儂のような歳であろうと腰が痛む。

ふと外を見ると、窓に掛かった薄い衣の向こう側に星がいくつも瞬いておる。海では余裕がなかったせいか、こんな風に星を眺めることはなかった。

いかん、無性に米を喰いたくなってくるのう。

「っこいせ……」
座を正し耳を澄ますと、少女の穏やかな寝息が規則正しく流れておる。
それにつられるようにぼんやり腰帯から鞘を外し、いつしかそれを支えにしたまま目を閉じてしまっていた。





「うわぁ!ったたた……」
騒がしいことよのう、人がぐっすり眠っておるというのに。

ぐっすり?

いかんのではないか?それは。


そんな呑気な答えを見いだし、そっと目を開くと、儂に驚きつつ頭の痛みのためであろう、額に手を当てて苦しそうな少女がおった。
「だっ、誰!?っていうか私……あれ!?何で!?いたたたたた……」
「どれかひとつにせい、どこから答えて良いかわからぬわ。ほれ、深呼吸〜」
「すー……はー……っで、あのっ!」
「ほれ、薄荷の葉じゃ。二日酔いも覚めるぞ、噛め」
「どうも、あふぃはほうほはいむふ」
奪い取るように儂の手から乾いた薄荷の葉を掴み、前歯で噛んだまま話すには流石に驚いた。
「別にずっと噛んでいろと言ったわけでは……」
「そんな、騙したんですね!?」
裏切られた、という表情で嘆く。
なんじゃ、先程からえらく力が入っておるぞこやつ。
「そうではなくてじゃな……ほれ、深呼吸〜」
「すー……はー……」
話が進まんぞこれでは……。


2,3度同じ様なやりとりをし、これまた同じように深呼吸するとやっと落ち着いたらしく、今度は少女から口を開いた。
「あー……ごほん。えっと、まず事情から説明して頂きたいんですけど……まず、どうしてあなたは私の部屋で寝てたんです?」
「ああ、それはじゃな、」

それは……じゃな……?

しまった、何と返せばいいのやら?

この部屋に辿り着くまでの事情はなんとかなるにしても、ここに留まっていた理由が無い。女人の部屋で疲れて寝ていただけなどと、誰が信じようか。
「もしかして……」
少女は眉間に皺を寄せてこちらを見ている。参った、勇者と共に旅をする前に、仲間に手を出した罪で牢屋行きなど御免被りたい。ああ神よ、我を見放したか。
「あなたは……」
ああ、助けてくれい。

「私を助けてくれたんですかっ!?」


は?
「あ、た……助け?」
「はい!昨日私、めちゃくちゃ飲んでたみたいで……確か勇者とその連れを探しに酒場に行ったはずなんですけど、そこから記憶がすっぽり抜け落ちちゃってるんですよ!あそこって荒くれ者の巣って聞いてて城の女官さんにも注意されててとにかく気は抜かないようにしてたんですけど、もしかしたら油断して酒飲まされて……ここ私の部屋だし、あなたが届けてくれたんですよね!?で、闘いに疲れて寝てたとか!」
ぽかんと立て板に水のような少女の弁を聞いておったが、尋ねられているのにはっとして、
「お、うむ」
思わずウソをついた。……ええい、ままよ。

まぁ全て間違いというわけでは無いしの。ただ闘いには勇者も助太刀しておるし、儂1人の手には依らぬのがどうも喉に引っかかる感じがあるが。しかも疲れて寝たのも船旅の疲れの為じゃし……じゃが、少女はもうそれを信じておる。こうなると調子が良いものじゃ。
「すみません、ありがとうございました!私、スフィアっていうんです!すごいですね、強いんですね!あ、きっと私酒癖悪いから迷惑掛けましたよねー……」
「うむ、それは間違ってはおらぬ」
思わず昨夜のことを思い出し、思い切り首を縦に振った。と、不思議な顔をする。
「……「それは」?」
おお、いかんいかん早速ボロが出たわ。
「いや、何でも無い。そういえばそなたは勇者一行の一員であったのう?」
なんとか話題をそらすと急にうれしそうに、ぱっと顔を上げる。
「そうなんです!今日には旅立つって……って、なんで知ってるんですそんなこと?」
「儂も勇者に認められた者じゃ。そなたのことは……まぁ、聞いてはおった」
「ホントですかぁ!?わー、すごい頼もしいです!そだ、名前は何ていうんです?」
昨日言っておるのにのう……。思わず頭を掻いた。

「ジンじゃ」






あとがきing
リク・「ジンとスフィアのお話」
お答えして、Fantastic Fellowsの4話目、裏話SSですー。
題名、意味はリンク先の日本語そのままです。


そんなこんなで実はこんな美味しい状況だった2人(笑)
一応これは本編入れようとして止めてたものです。
なんかジンのおっさん具合がやばいですが。
Sさま、お気に入りくださるとうれしいです〜。

※ちなみに「ままよ」とは、「どうにでもなれコンチクショー!」の古語です(一部ウソです(おい))
※ジンは21歳です。「二十と二〜」と言っているのは数え歳だからです。
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