Bright reason.2
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「だらぁ!観念しやが…れ?」

狭い階段を上がると、そこは確かに誰かが居たっぽい部屋だった。けど、誰も居ない。

「カーム、こら!」

「あでっ!」

不意に後ろからおもいっきり頭を叩かれ、びっくりして振り返る。と、そこにジャイナが肩で息をしながら立っていた。遅れてスフィアとジンも姿を見せる。

「…んだよ」

「んだよじゃないよ!いきなり突っ込みやがってうらやまし…じゃない、このアホ!」

あー、アレだ。まぁそこんとこは聞こえなかったことにしといてやるよ。さて、と。

…あれ?

「何?」

「いや…なんか動いた」

不思議な顔をするジャイナにそう答えると、スフィアも杖を片手に俺の横にやって来て、小声で呟く。

「気のせいじゃありません。…ピオリム」

スフィアの触れたところから、その呪文が流れ込んでくる。

「瞬間的に体の反応速度を上げる呪文です。…何かあったらすぐ動けるから」

「あ…ああ、ありがと」

こいつらしくない、なんて言っちゃいけないけど、横を向くとそこにあるのは本当に真剣な顔。いっちょまえに覚悟くらいはしてるらしい。馬車に乗ってたときなんて、あんな気持ちよさそうな寝顔してたってのに。

「ジャイナ」

「何?」

「派手なの一発頼む。あいつらが死なねぇくらいの」

すると、ふん、と肯定とも否定とも取れないような声を出して両手を前に翳す。そして、

「期待は…するな?」

「うん?」

別に威力に期待なんてしちゃいねぇが…。

「其れ行く道に色は無く ただ灼熱に己が身を焼く―――メラミ」

…げ。

 

ずどん!

 

とんでもない大きさの火球が部屋の隅を直撃し、そこから盗賊風の男が数人慌てて飛び出してきた。

思わず俺も頭を抱える。
あの馬鹿、脅しでいいんだってのに。

その中の1人が大声でわめく。

「こっ…殺す気かテメェ!」

「当たり前だろう?」

ジャイナは、ひどく静かに答えた。

…うん。マジだこいつ。

「お前達のしたことを僕は許したくない。―――次は当てる」

「しょっ正気じゃねぇ!行くぞ!」

「お、お頭は!?」

「もう外に出てってるよ!」

口々に言い、脇に開いた大穴から盗賊達は飛び出した。だけど、ここまで来て逃がす気は無い。カンダタは外なんだな?

「待てぇ!」

「なっ、お前が待てカーム!」

ジャイナの制止も聞かずに飛ぶと、そこにはそいつらしか居なかった。カンダタらしき人物は、どこにもいない。

「あーっはっは!こうも簡単に引っかかってくれるとはな!」

…は?

「囮だよ、お・と・り。リーダーはテメェだろ?」

「ま、こんなガキが勇者だってんだから世も末だけどな」

 

 

何、言ってやがるんだ?

 

 

「じゃーさっさと寝てくれやぶっ!?」

「囮?テメェらが?」

隙だらけで突っ込んできた1人を素手で殴り倒して、尋ねた。

「なっ…」

…あー、なるほど、わざと動揺した振りして逃げて、炙り出されてきたヤツを複数でぶちのめそうってわけね。下っ端でも、1対複数ならなんとかなるってこと?…ふーん。
馬鹿じゃん俺……なにあっさり引っかかってんだか。駄目だな、やっぱ頭冷やさねぇと。
まぁそれはこの雑魚をどうにかしてからだ。けっこうその……アレだ、

「あのな」

こいつら、めちゃくちゃむかつく。

「ナメんな」

 

 

 

 

 

「せっかく僕がハッタリ掛けて邪魔者退治したのに…まぁいい。お帰り」

「他人の建物に大穴空けることの何がハッタリなんだよ。で、なんかあったか?」

「3階への階段が、ほらそこ。…あの人たちは?」

「伸びてるよ、あそこに」

俺が親指で指差した先には、多分間抜け面でノックダウンしてる盗賊共が居たはずだ。それを確認したのか、ジャイナは苦笑する。

「あーあ…」

「拍子抜けだ。じゃ、行くぞ…ってカンダタもこんなヤツってワケないよな?」

「そりゃそうだよ。ほら、気ぃ引き締めなきゃやられるよ」

「わぁってるよ」

そうじゃなきゃエリーがカンダタについて行かなきゃなんなかった理由がわかんなくなるしな。

「よし」

自分に言い聞かせるように呟く。

そして顔の前で手を組み、

「よし」

今度はみんなに聞こえるように言い、一気に目の前の階段を駆け上がった。その軋む音なんて気にせず、2段飛ばしで走る。さっき冷静にしようって思ったのに、すぐこうなってしまう自分の性格が嫌になる。

で、階段を上がってドアを蹴飛ばすと、その先には1人、地べたに座り込んだ男が戦斧片手に俺たちの方を見ていた。気味の悪い、曖昧な笑みを浮かべている。

こいつがカンダタだ。直感がそう言ってる。それを裏付けるだけの気迫とかそういう目に見えない何かが、こいつからは滲み出ていた。遅れて付いてきたみんなに下がっているように言い、俺は1歩前に進む。

 

そしてそいつは、

「よう。こんな朝早く何しに来やがった」

なんて言いやがった。

そんな態度がかなり頭に来るんだが、こういうときは熱くなった方の負けだ。

「さっき俺が下で言った通りだよ。聞こえてたんだろう?」

「まぁ、な。どんな馬鹿が来やがったかと思ったもんだぜ」

言って、盗賊の持つにしちゃあまりに不似合いなその斧を支えに、ゆっくりと腰を上げる。

「その様子じゃあ俺様の名前は割れてんだよな?」

「カンダタ、だろ?」

「当たりだ」

そう言ってニヤリと笑い、…その盗賊は突然消えた。
驚いて見ると、カンダタの体に隠れてわかんなかったんだろう、床には大きな穴が空いてる。
畜生、こっから降りてちゃ間に合わない!

「行くぞ!」

側の窓を叩き割り、そこから一気に飛び降りる。
「ちっ。逃げられねぇか」
「当たり前だ!ここまで来てテメェをみすみす見逃してやったりしねぇよ」
みんなは……ジンが若干ためらったけど、ジャイナに促されてなんとか飛んだ。それを確認して前を向くと、さっきとは別の3人の盗賊がカンダタの後ろに……おいウソだろ?

「えっ……」

その内の1人が抱えていた人。見間違う筈なんて無ぇ。

それは目の覚めるような銀髪をした、

「エリー!」

俺の仲間。やっぱここに居たんだ。目を閉じて力無く項垂れるあいつを見て、もう我慢は限界になった。

「っカンダタぁ!」

「あーあー熱くなんじゃねぇ、お前らが来たって知ってぎゃーぎゃー喚くから眠って貰っただけだ。別に手出ししてねぇよ」

すると、ジャイナは呟くように言う。

「やっぱりわかってたか」

「当たり前だ。ロマリアに置いてた手下に確認させたからな」

なるほど、俺らの行動は端から筒抜けだったってことか。それで、俺たちを誘い込んだ、と。カンダタは続ける。

「こいつらはウチの手下の中でも特に戦闘に秀でたヤツらだ。どーもこれであんたらで数は同じだな。…で、どうする?」

「カーム、お前に任せるよ」

ジャイナが耳元で呟いた。はっ、答えなんてもう決まってるさ。俺だって覚悟くらいしてきたつもりなんだ。

「ここで逃げたら俺の仕事が無くなるだろうがよ」

「はいはい。じゃ、行く?」

呆れ顔してジャイナは笑う。

「ん。じゃ、他頼んだぜみんな?」

「任せて♪」

「ふむ」

そして、目線を前に戻す。手下の1人が、眠ってるエリーを離れたところに置いてくるのが見えた。意外と紳士なヤツらだな…ま、この際そんなことどーだっていい。

「お前のせいでな、めちゃくちゃ迷惑してるヤツらがいんだよ」

「ほう?」

「スラムのガキ共さ。エリーが突然いなくなって、あいつらどんだけ傷ついたと思ってやがる?…テメェにはまず、そいつらに地べたに頭がめり込むぐれぇ謝って貰う。お前達に寂しい思いをさせたのは自分ですって、そいつらの目の前で。あと、ロマリアの王様な」

「ロマリア王はついでかよ…で、嫌だと言ったら?」

「ははっ。なら、力ずくで引っ張って行ってやるよ」

そう言って、俺は背中の剣に手を掛ける。

 

…行くぞ、この野郎。

 

「っぁあああああああァ!!」

無茶苦茶に叫び、剣を抜き放ってカンダタに向かい突っ込んだ。

「…シンプルな馬鹿は好きだぜ俺様ぁよ!」

カンダタも斧を背に突進してくる。

やってやるさ。どうせ俺が勇者を名乗った時点でどこにも逃げ場なんて無かったんだ。

俺は行くしかねぇんだよ、どーせ。

 

 

心の中で叫ぶ。『俺は、

 

 

剣を振りかざし、言った。

「返して貰うぜ、大事なもん!」

「来いクソガキ!」

 

 

…負けねぇ!』



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