あ、カーム行ったね。
あの突っ込み方…イノシシじゃあるまいし。王様にどんな指導されたんだ?ったく。
「ふぅ…よっしゃ。僕らも行っくよー」
「え?あ、はい!」
そう言ってスフィアが慌てて僕の後を走ってくるのを見て、視線を前に戻した。
相手は3人。さて、誰にしようか…な?
「そこの長身!俺とやれぇえええ!」
…あ、僕には選択権無いんだ?
どうも真っ先に突っ込んできた筋肉バカっぽい男が僕の相手らしい。…うっわ、鼻息荒そうこいつ…これから始まりそうなむさい戦いから目をそらし、溜息混じりに見回す。
他は―――――ジンの相手は甲冑着込んだ大剣使いで、スフィアの相手はなんかよくわからない、女?えらいケバい服着て「余所見してるんじゃねぇええええ!」
うぉわ!?今のはなっなんとか避けられたけど、びっくりした…。
「あっぶないなぁ!余所見してるときに全力で跳び蹴りなんて!」
「うるせえええ!真剣勝負なんだぞ、俺だけ見てりゃいいんだよ!」
「…僕はあんたの恋人か」
「わけのわからんことをぬかすなぁああ!!」
あーもうやかましい!近所に家があったら間違いなくしょっぴかれるだろこいつ。そのあと休み無く連続で拳が飛んできたんだけど、無視して後ろに飛んで間合いを取った。そして構えたまま睨み合う。
んー…多分見たまんまだよなぁ?
「あんた、武闘家か?」
試しに聞いてみたら、マッチョな男はにやりと笑う。
「今は盗賊だがな。カザーブ出身の元武闘家ゴウエン、お前をカンダタと勇者との戦いには加勢させんぞ!」
びしっ、とか音がしそうなくらい芝居がかった口調と芝居がかったポーズ。ははーん、昨日僕らが来るって聞いてかなり練習してるな?
…ってそんな推測はどうでもいいいんだよ自分。どう戦うかが問題だろ。魔法使おうにも間合いはもう取らせてもらえそうにないし…。
「んー…よし、じゃあガチンコで」
「俺はハナからそのつもりだ!」
歯ぎしりしてゴウエンは言う、けど僕はそんなことだけを言いたくて言ったんじゃない。
僕はローブに手を突っ込み、そのなかで背負ってたもののベルトを外す。
ごとん、と音を立ててギターケースが落ちた。その光景を、不思議そうに元武闘家は眺めてる。
「…なんだ?」
「重石さ。…ふぅ。じゃ行くよゴウエンさん。荷が落ちたんだ、さっきのが僕の動きと思うな?」
喋り終わるのが早いか、ゴウエンが突っ込んでくるのが早いか。とにかくそんな感じで僕の戦闘が始まった。
そんな感じで予想通り間合いを詰めてくる。武闘家の必勝パターンだ。
「もう、こんな近付くな!?」
「黙ってろ!」
言葉と一緒に何発か拳と蹴りが飛んできて、今度はかわせず受ける。…粋がっておいて後悔したんだけどさ、この男やっぱ強いわ。止まらない殴打と蹴りのコンビネーションと言い、武闘の基本をしっかり抑えた戦い方をしてる。まぁそれだけだから隙もあるっちゃあるんだけどさ、
「せぃあっ!」
「くっ!」
…一撃が重いんだよなかなか。
特に今のパンチとか。両方の掌で受けるのが精一杯だし、受けたとしても骨を削られてるような衝撃に耐えなくちゃならない。魔法使うために必要な最低限の間合いもどうやっても取れないし…もう嫌いだこういうやつ。
「全くもう…強いねぇアンタ」
「ふっふ、もう降参か、ええ!?」
「うっさいわステレオバカ、まだそんな時間経ってないだろ。もしかして脳みそ筋繊維で出来てんじゃない、のぉっ!?」
怒りと共に飛んできた蹴りをすんでの所でかわす。冗談言うのも命がけだよホント。
でもやっぱ人間とやる方がやりやすいかもな。
魔物はホント単純思考で、逆にそれが怖いんだけど人間は違う。自分が優位に立つと奢るし、そういうの利用するのは僕にとっちゃ慣れたもんだし。最初は正直ちょっと怖かったけど、やってみりゃそんなこと無いや。要は師匠と手合わせするのと同じだ。
あー、でも受けてばっかりじゃ身が持たないか。
「必殺、僕特製ラッシュっ」
そう言って、後ろに軽く飛んだ。そして追いかけて来たところに、狙いすました上段と下段の蹴りを連続で蹴りこむ。
…つもりだったんだけど、さ。
前言撤回。人間と戦うのって難しいや。
「…これがマジ蹴りかよ」
一発目の蹴り、片手であっさり受けられたぞ。
「…どんな筋トレしてんの?」
「毎日この塔の淵で懸垂2万回」
「ウソぉ!?」
そらしゃーない。
心の中で言った直後、ゴウエンはそのまま足を掴む手と反対の拳を繰り出した。避けられるはずもなく、まともに鳩尾に入る。心臓が破裂したみたいな痛みが走り、膝から崩れ落ちる。根性ですぐに立って離れたは良いんだけど、これじゃあどうにもまともに動けそうにない。
「堪えたか…だが終わりだな、ローブ野郎」
「…かっはッ…どうかね」
空気の塊を吐き出すようにして息を吐き、もう一度吸う。…大丈夫なんとかなる。心臓破裂してないし。相手はもう油断してくれてるし、今のウチになんとかしなきゃ。
「スピードは認めてやる。だが付け焼き刃の技術じゃあ無理だ」
悪かったね、速いだけでさ。
「なんであんたみたいに強いのがカンダタなんかの手下やってんのさ。あんなゲス野郎の?」
すると、今度は一気に駆け寄ってきて蹴っ飛ばされた。……一言余計だったか。派手に宙を体が飛んだ気がして、次の瞬間地面に叩き付けられる。
ちょっともう痛いよこのバカ。
「あいつはカザーブを出て身寄りのない、流れの俺を拾ってくれたんだ!そいつを、テメェ!」
熱いねぇ、終始。
「ててて……そいつが僕の仲間盗ったんだよ?どうこう言う筋合い無いけど、言われる筋合いもないね」
「要はお互い様ってことだろうが。なら尚のことテメエはぶっ殺すぞ」
ぶっ殺すねぇ。相手はやっぱその気で来てるんだよね……やっぱ遠慮しちゃダメってことかな?
「ひとつ聞いて良い?」
「なんだ」
「あんたエリーのことどう思う?」
するとゴウエンはふと考えて、
「ただの使えねぇガキだ。探索能力しかありゃしねぇしな。なんでカンダタの野郎はあんなの一味に入れてやったんだか。代わりならウチの一味にゃいくらでもいるが、身内は死ぬまで身内ってのを理解してやがらねぇ。盗賊だって同じだってのによ」
「本人が嫌がっててもか」
「知るかよんなもん。入りてぇって言ったのはあいつだろうがよ。まぁ誰かが欲しいってんならくれてやるさ」
力ずくで奪えたらな、とゴウエンは無表情に付け足す。…そーかい。なら話は早いじゃん。別に手を抜いてたワケじゃないけど、もうこいつらには容赦しない。ロマリアの借り、倍返しだ。
「ならもう僕もあんた殺す気で行くからね」
「あん?」
「聞こえてろよ筋肉バカ…」
言って、どうしてこうも僕は相手を挑発するんだろうと後悔した。アホかっ。でもなんとかギリギリで前蹴りを避け、全力でもう一度後ろに飛ぶ。もちろん、こんなんで間合いを作れるはずがない。でも、その隙に呪文唱えるくらい出来る!
「地に住む嵐 空を求めて暴れ狂う!」
巻き添え上等!
「イオ!」
足元でなんかエネルギーが炸裂した気がして、ゴウエンも僕も吹っ飛んだ。そしてちゃんと気のせいでもなく、足元の石畳はボロボロ。自分の魔法を喰らうのはどうも久しぶりでこれがまた結構つらい。足の筋肉がブチブチにちぎれたみたいな感じだ。
だけどやっとあの元武闘家の足止めたんだぞ…ふらつくな、足。
「改めて名乗るよ!僕の名はジャイナ・アルフレイ、ダーマの魔法使いだ!選ぶ相手間違えたね、あんた!」
「くっそ…さっき俺たちのアジトに火の玉撃ちやがったバカはお前かぁ!」
…僕もバカですよどーせ。
「ふん。…さて、焼き加減は如何ほどで?」
どうにもさせるか、的な言葉を叫び、がむしゃらに突っ込んでくる。あはは、なんかカームとやったの思い出すなぁ。
ごめんね、僕それより詠唱早いんだ。
「では本日の店長の気分により、焼き色はウェルダンで――――我請う光、奔りて遍く大地を掻き消せ!ベギラマっ」
「くあああああ!」
効いてる…けど、炎突っ切って来やがった。もう、嫌いだこういうヤツ!
「倒れろよ、いいから」
「がっ…!」
服を焼きながらも突進してくる気力に感心しつつ、こめかみに向かって言葉の軽さとは裏腹に全身全霊の蹴りを入れてやる。おかげでゴウエンは前のめりに倒れ込み、泡を吹いてしばらく立ち上がる気配はない。
…勝った?
「…はぁ。いてて」
思わずその場にしゃがみ込んでしまう。あーもう、今更蹴られた腹が痛む。けどまあそこは自分がアホだったことにして。ギターは…無事か。あーあ、その辺の盗賊にこんな苦戦してるようじゃ先長いね…。
「ちょ…ちょい休憩」
とりあえずいっちょあがりだよリーダー。
…援護は悪いけどちょっと待ってね。
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