Bright reason.5 - Jaina & Calm
とりあえず戦闘も全部終わって、僕たちは所々ばらばらに倒れてたカンダタの仲間―――名前はロロ・マリア・ゴウエンの3人と、カームが最初に倒して時間も結構経ってるはずなのにずっと伸びたままの超下っぱたちに縄を掛けていく。カンダタにはもう最初に縄を掛けてジンが見張り。スフィアはカームの折れた腕の治療で、さっきからずっとカームに付いてくれてる。腕以外にもかなりやられてるみたいで、「……時間掛かるかも」ってスフィアは呟いた。んで当のカームには無理しないようにラリホーかけてあって、今のところはスヤスヤ寝てる。
「で、結局こうなるんだ?」
必然的に、余っててその上動ける僕たちがこういう作業に勤しむことになるわけで。文句言いつつしゅるしゅると縄を結んでいく。
「はいはい、今は手を動かしな。みんなエリーが寝てる間にすごく頑張ったんだぞ?」
「カームのは直に見たよ。それにしてもまっさかあんたがあのゴウエンをのしてるとはねー、っと、あら」
「どした?」
僕が聞くと、エリーは少し困ったような顔で首を傾げた。
「この人後で絶対怒るよ。これお気に入りの服だったから」
「なんだそんなこと。ってこれお気に入り……盗賊のクセに相当派手じゃない?」
そう言って見た、女盗賊の服は金で縁取りされた真っ赤なローブ。相当ケバいと思ってはいたけど近くで見るとより一層すごい。触り心地も抜群なそれをちゃんと着込んで、マリアとかいう名前の盗賊は威風堂々と気絶してる。……スフィアもこれ相手に良くやったよね、本当に。
「一体どこから盗んだのやら……どこぞの貴族みたいだな」
「ホント。私はこのくらいで丁度良いんだって譲らなかったから、さッ!」
エリーはジンから借りたナイフでマリアの派手なローブを破り、その布を捻って縄にしてその腕を縛った。無惨なくらいにローブはビリビリになっていく。……大した肝だ。昨日今日まで同じ一味だったってのに、何のためらいもないんだから。ちょっとそれが不安になったりするけど、まぁそのときはそのときで考えればいい、今はそんなことを言ってるときじゃない。
僕は名もない下っ端をひとまとめにして、カンダタのアジトから見つけてきた、無意味に長いロープをその体にグルグル巻いた。
「何やってたのさ?今まで」
不意に質問を投げかけてみた。すると、
「聞きたい?」
エリーも手を止めて、くるっと僕に顔を向ける。良かった、僕の話、聞いてはくれるみたいだ。
「そりゃあね。僕はほら、一応保護者みたいなポジションでしょ?子供の家出の原因くらい聞いておかなきゃ。こら起きるな」
話の途中だってのにまだ縄を掛けてないゴウエンが突然起き上がったから、首筋に手刀を入れてまた卒倒させた。……早いとこ縛っとかないとこのおっさんは何度でも立ち上がりそうだな。
「む、家出って。そういやカームもあたしのこと「お姫様」って言ったぞ」
「……あのキザチビイタチ。かっこつける点においてこの僕を出し抜くなんて10年早いわ」
「……あんた、3つも歳上なんだよねカームより」
「エリーだって僕より3つ年下でしょ」
「あは、バレた?」
笑い、またエリーは手を動かし始める。……ダメだ、なんかうまいことはぐらかされてる。くっそー、どうにかして聞き出さないと、あのイタチ小僧がまた自分のせいで〜とか悩み始めるじゃないか。それにカームの場合は表にあんまり出さない分タチが悪いんだよー。無理なくせに自分で処理しようとするんだから……どっかで吐き出させてやるか、予防として悩ませないってのが長く付き合ってきてわかったコツだけど。
「頼むよ、この通り」
顔の前で手を合わせて懇願するポーズを取ると、ふぅと息を吐いてエリーはまた手を止めた。
「カームに言わないって約束するんなら」
「考えとくからさ!」
「……言う気満々じゃない?」
「んー、場合によるね。まぁエリーがカンダタ側になびいてたってことは結局無かったんだし、そこんとこはほっとしてるんだけど。大丈夫、僕って意外と口固い方だから、ね?」
「……じゃあさ、カンダタが実は私のお父さんだったから協力してた、とか?」
「じゃあさとか言ってる時点でウソだってバレバレなんだけど」
「えっと……」
「こら、考えて事実をねつ造しようとするな」
すると、本当に困った顔で僕のを真似て、ぱんと手を合わせた。
「頼むっ。本当に言いたくないんだ」
「どーしてさ?」
「どーしても。どーせ言い訳くさくなるし、良く考えたら周りがあたしを認めてくれるはずない」
「周りが何て言おうと知らないよ、言わせておけばー?」
諸手を挙げてみても、エリーは笑わなかった。「あのね」と切り出す。
「シャレじゃ済まないことだと思うんだな。カンダタなんて悪党と少しでも親交のあった人間が、勇者一行の中に居ても良いと思ってるの?」
「いいんじゃない?」
「駄目だろ!?」
「いや、そんな言わないで聞いてってばー。ウチらのバックアップが誰か忘れたの?」
「ラルスのおじちゃんじゃないの」
「アリアハン王をおじちゃん扱い?でもまあ、そういうことだから、そういうことです」
「……ッ分かりづらいぞ!?」
地団駄でも踏みそうな勢いでエリーは抗議した。うーんそりゃそうか、……いや、そりゃそうか?エリーなら分かると思ったんだけどな。
「何で一発でわからんのだ!」
「分かったヤツがいたらあたしはそいつに大変な敬意を表する!」
「むっ、言うようになったじゃあないかこのイタチ娘!」
「イタっ……!いいから説明して!」
テンションが妙に高いのは置いておいて。
ふん、そこまで言うなら説明してやろうじゃないか。
「はいはい。じゃあさ、ラルスさんは何でルイーダの酒場に「盗賊」って項目作ったと思うんだ?」
「?それは盗賊の技能を活かして……」
「違う、エリーだけのためだよ。アリアハン外の国には盗賊を募ってるなんて言ってなかったんだ、あのおっさん。ダーマにもそんな項目は伝えられなかったよ」
「あっはは、んな冗談……って。なんであんたそんなマジ顔なの。もしかして本気?」
「ウソだとでも思ったの?」
言うと、エリーはいぶかしげに僕を見る目を細めた。……大マジなのに。冗談言ってるように聞こえるってことは、僕はやっぱりこういう話には向かないってことなのか?全く、と口の中で呟いて盛大に溜息を吐く。
「……ったり前でしょー、1つの大陸分の民衆を抱える国家がだよ、どこの者とも知れない犯罪者かき集めてどうするのさ。あのリストの盗賊の欄にはエリー、君の名前しかなかったんだよ」
「そっか。あ、でもあたし、カンダタ……」
「カンダタがそんな大事?」
「っ大事とかそういうんじゃなくって!それが足枷でみんなに迷惑掛けるかもしれないって言ってんの!」
エリーはどん、と僕の胸を拳で小突く。話の分からんやっちゃなー……そういうとこ、カームと似てるから保護者としても頭が痛い。
「一体どこで僕たちが迷惑掛けられなきゃなんないのさ。僕たちこれでもアリアハンの国家公務員なんだよ?」
「何だその安っぽい肩書きは……ッ!……もういい、ジャイナのしたい話はよくわかった」
「ホントに?」
「んー……」
何やら呻いて、エリーは頭を抱えかくんと項垂れる。前髪が顔を隠してるから、どんな顔してるのかは良く分からない。と、何かのスイッチが入ったみたいに両手で自分の髪の毛を掻き乱し始めた。
「わあああああ!」
「あ、エリー壊れた?」
「壊れてない!……もうなんか、今までの自分がアホらしくなっただけだ」
すぐにスイッチが切れたのか、そう言ってぐしゃぐしゃの髪を手櫛で梳いた。……ひとまず落ち着いたみたいだ。そして言う。
「カームとは帰ってからちゃんと話すよ、それでいい?」
「わっかりましたー」
適当に手を振って、適当に返した。んで、その言葉を聞いて安心してる自分がいたみたいで。この2人なら立ち直るまでにそんな時間は要らないななんて思ってる僕が。
「全く……鈍い連中め」



          * * *



「仲良さそうだなぁ……」
なんとなく不満そうな声。エリー?暗い目蓋の裏側に聞こえた言葉を反芻する。
「……う?」
「あ、カーム君起きた?」
……君?
「……んあ」
起きたには起きたけど、妙にすっきりしない。瞬きすると、ようやくぼんやりしていた視界が治ってくる。俺は仰向けになってて、見えるのはエ……あ、ああ、スフィアだ。スフィアが横に座ってる。妙にあったかいのは、回復呪文のお陰だろう。起きた手前気が引けたけど、また目を閉じる。

……何ていうか無理矢理押さえつけられてるみたいな眠りだった気がする。スフィアが眠りの呪文を唱えて、俺はその間中天使がふわふわしてる何とも間抜けな夢を見せられてたみたいだ。そこに自分の感情とか、そんなのが入ってく隙なんてない。呪文なんてのはやっぱそんなものかと変に納得して、
「よっ……あ痛っ!」
起き上がろうとして折れた腕の痛みに気付く。寝ぼけてた。
「ちょっ、カーム君まだ寝ててってば!まだ腕の骨くっついてないんですからね!?」
「っでぇっ!?」
ごすん、頭を下に戻される。……床、石だっつーの。
「悪い、……寝ぼけてる」
それも現在進行形で。悪いスフィア、一瞬エリーかと思った。
「ここ、どこ?」
「……え、ウソ?どっ、どうしよう!やっぱ呪文なんて使わない方が良かったのかな!おーい!」
冗談のつもりで言ったら本気でスフィアは焦って、上から両頬を何度も叩かれた。
「……、生き返りましたごめんなさい」
観念してぼそっと言うと、良かったとスフィアは胸をなで下ろしたみたいで、また「ベホイミ」って言って左腕に手を翳した。ってそれビンタ喰らった顔にも当てて欲しいんだけどなー……。
それから俺は、とりあえず顔の痛みは諦めることにして、日が昇り始めた東を睨んだ。ここは壁とかない分、景色がすげー綺麗だ。朝日受けてだんだん緑色になってく山だとか、それと反対側のもっと遠くには水平線まで見える。
それにしてもこの状況って予想通りっちゃ予想通り、それも最悪に出来すぎた形だから笑える。やっぱ負けたな。俺にとっちゃそれ以上でもそれ以下でもない。なんか自分には似合わない変な笑い声が出て、気味が悪くて舌を出すと、スフィアが笑った。
「……何?」
「いや、百面相が生で見られてるな、と思って。すごく面白いですよ、さっきからころころ顔が変わるから」
「悪かったな」
ふくれっ面をすると、「新しい顔ですね」ってまたくすくす笑う。くっそ、なんであんたはそんなマイペースなんだ。回復呪文使いながらなんだから結構しんどいはずなのに。
「カーム君、力抜いていいんですよ。戦いはひとまず終わったんですから」
不意にスフィアが言った。
「……んなこと言ったってさ〜、あーカッコ悪ぅ!」
そしてこの戦いを思い出す。あんときカンダタのフェイントを防げていれば、あのとき呪文が成功していれば、あのとき効果的に剣を扱えていれば、あのとき意地を張ってカンダタの攻撃を真正面から受け続けなければ、……ければ、
「……勝てたかなぁ?」
「割と弱気ですね?」
「あー。正直何やっても負けたかもなぁ、あいつには」
ちらっと縄でグルグル巻きにされてる盗賊団の首領に目を遣る。と、あっかんべーをして返され、ジンがぼこ、と軽くその頭を蹴飛ばした。なんとなくそれを眺めて俺は言った。
「王冠貰って釈放しよう。いつか実力であのクソオヤジを叩きのめす」
「……いいの?あの、エリーさんだって……」
「いーの」
俺は言った。自分が弱いせいで仲間を盗られるような経験はごめんだけど、それならこっちが強くなってやるまでだ。もう誰にも渡してたまるか。
「王冠持ってる勇者には誰も逆らえないぞ」
「……もしかして私達もですか」
「当然」
スフィアは「はいはい」って言って苦笑する。本当はそんなこと、無いんだけど。あのときみんなが来てくれなかったら確実に腕は飛んでて、俺は勇者じゃいられなかったかもしれないんだからな。ひとまずエリーと王様に頼まれた冠は取り返せるんだし、今はそれでいいのかもしれない。なんとなく空を眺めて聞いた。
「腕、あとどんくらいかかりそう?」
スフィアは、ん、と考えた素振りをして、眩しそうに東を見る。
「もうちょっと……あの陽がも少し上に行ったくらいかな」
「ごめん、迷惑掛けてる」
「いいの、これ私の仕事だし」
「んー……変わった?」
「多分?」
ぼんやり聞いたら、スフィアはそう言ってはにかんだ。
……こういう人がいるのははすごく助かる。
よっし、これ終わったら、宿帰って寝よう。





あとがき

さ、やっと終わったよ大変なところが(ほっ)
こんなにバトルシーンばっか書いたのは初めてです。
……自分の下手さを痛感しております。
さて、カームはなんかスフィアと仲良いんですかね?
支え合ってる良い友達関係ってとこかな。
全く思春期はうっとうしい(うぉい)
で、また次回。
こっから苦労するのは誰でしょー。
目に見えている気がしないでもないですが。
とにかく、大規模なバトルはしばらく遠慮したいです(汗)


現時点レベル(推定ってことで)
カームLv.11,ジャイナLv.17,エリーLv.10,ジンLv.23,スフィアLv.14。
むぅ。外国組強し。
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