Bright reason-Battle3- - Sfie
今日、ああもう昨日になるのかな。ダーマから出てきて初めて魔物を倒した。けど、そーいうのじゃないんだよこれ……。

私の前に立っているのは紛れもなく人で。手があって、足があって、それから、
「なにボーっとしてんのよ」
フードの下に隠れてさっきまでわかんなかったけど、綺麗な女のひとの顔がそこにはあった。すらりと整った顔立ちは高家の貴婦人を思わせる。
「別に……ボーっとしてなんか」
「してるわよ」
ものすごいはっきりしたっていうか、ちょっとキツい言い方。何、そんな決めつけるみたいな言い方しなくたっていいじゃない。
それでも貴婦人な盗賊さんは、至極無表情だった。視線は私なんか通り越して、奥で闘ってるカーム君と盗賊団のお頭、カンダタの方に向いたままだ。そしてふとその視線をその奥、倒れてるエリーさんの方に向けた。
「あんた、あのバカ女を連れ戻しに来たんだってねぇ?」
「バカ女って。人のことを話すときにはその人の名前を使うべきです」
カーム君やジャイナ君が必死になって取り戻そうとしてるひとなんだ、バカ女なんて呼ばれるような人間じゃない、絶対。そしたらさっきまでのまだ穏やかそうな顔とは打って変わって、眉間に皺を寄せて剣呑な表情を浮かべる。
「バカ女。そう、バカ女なのよ!バカにバカって言うことの、どこが悪いっていうのよ!?」
えっ、いきなりですか!?っていうか私の話聞いてます!?
「全く……ああ忌々しい。なぁんでただの足手まといにしかならないような女を無理矢理引っ張ってきたのかしら、あんのカンダタのバカたれは!」
エリーさんへの愚痴が勢い余ってカンダタにも飛び火してるし。
「ちょっ、落ち着いて」
「あの女がいたから私がこんなことしてんでしょうに!ったく、さっさと終わらせてやればいんでしょ!」
そう言って袖から杖を引っ張り出す。杖の先っぽには紅い玉が乗っかってた。
でも、それだけじゃ魔法使いか僧侶かわかんない。なんか魔法使いっぽいんだけどどっちだろ?
「何やってんの、構えなさいよほら」
貴婦人は急かすように杖を振り上げる。私も反射的に右手に持ったルーンスタッフを掲げた。

実を言うと、ものっすごい怖い。

みんなどうしてるんだろ、本気で……相手を殴ったり、斬ったり、してるの?
私の場合はこの目の前にいるこの女のひとに勝たなくちゃいけない。この人は本気で私を倒すつもりだし、私もこの人にすごく痛い思いさせて倒さなくちゃならない。そうしなきゃ私が痛い目に遭うんだ、迷ってる暇なんて無いんだって。ルーンスタッフを握る手に力を込める。まずは貴婦人が魔法使いか僧侶か見極めなくちゃ、だ。
「地に住む嵐」
貴婦人の呪文の詠唱が始まる。まだだ、まだわかんない。
「空を求めて暴れ狂う」
ここで貴婦人の言葉が切れた。次の瞬間に何かを撃って来るはず。すると貴婦人の手元が赤く光った。そして叫ぶ。
「イオ!」
ばばばばばばばん。
床石が目の前で幾つも派手にはじけ飛んで、その破片が私の頬を掠め、足を切った。破片が当たったところはめちゃくちゃ痛いし、それくらいでニヤニヤしてるこの女もすごく嫌な感じだ。だけどこれで敵は魔法使いだってわかった。
これって……もしかしたら何とかなるんじゃない?
「……ったぁー」
「うふふ、私の醍醐味はこんなもんじゃなくてよ」
「あのー」
「何」
「降参してくれません?そしたら痛いこととかしませんよ!」
一応笑顔で言ったんだけどな、逆効果だ。わー、怒ってる怒ってる。
「うふふ、マジで殺すわよ?ガキが」
大人の女のひとって怖いよー……。

笑顔なのにこの人全然心から笑ってない。綺麗なローブを羽織ったその奥で、冷たい気がゆらゆら揺れてる。
これが良く言う、殺気、ってやつなのかな?

私がどーにかなるって思ったのは、魔法使いは回復魔法が使えないから。特に体力のない女魔法使いは持久戦に弱いって聞いたことがある。私も持久力には自信は無いけど、ダーマで鍛えた分少しは保つはず。ゆっくり戦えば勝機はある、なのに。
「ごめんなさい、私そういうつもりじゃ」
「ふふふふふ死ね」
ああ、キレちゃった。持久戦は駄目かも……どうしましょう我が主よ。
「じゃあ、そのー……どうか化けて出ないで下さい」
失言だ、完全に。はっとしたときには遅かった。やるしかないなー、もう。

「照炎、ギラぁ!」
「短っ!?」
それでも閃熱の魔法は私の側を掠める。どう見ても完璧な魔法だったんだけど……それでも端折り過ぎよ、いくらなんでも!
「火球、メラ!」
おろおろしてるとジャイナ君の得意な火の魔法が私のローブの端を焼いた。焦って杖で払って火は消した。けどどうしよう、この人見かけ倒しじゃない。ジャイナ君はあんなに長々詠唱してる魔法なのに、詠唱省略なんて……数を撃たれるとつらい。

ゆっくりと貴婦人な盗賊は間合いを詰める。
「氷戟、ヒャド!うふふ、私の真骨頂はここからって、言った、でしょう?」
くっそぉ、それがどうしたってのよ!
って、あれ?
「あの、息切れしてるんじゃ……」
「黙れ!爆散、イオ!」
「っうあ!」
今度は相手が間合いを詰めていたこともあり、目の前で爆発が起こった。空気の壁に押し出されるような感覚で、そのまま吹き飛ばされる。何メートルか転がって、その反動で起き上がる。
胸の当たりが直撃受けたせいでずきずきする。

相手は詠唱省略の使い手、こっちは攻撃はバギひとつ。体術はあの詠唱の早さじゃ迂闊に使えない。私の詰め手は完璧に封じられた。

やばいかも……。


って。
「私まだ何も出来てないじゃん!」
喝入れるみたいに大声で自分に突っ込みを入れた。まだやれるのに何弱気になってんの、相手がちょっと強いからって。こんなんじゃ世界がどーの魔王がどーの、ジャイナ君達と肩並べて言えない。
くっそ、やだ!もう助けられたりしたくないんだ、逃げるな、逃げるな、逃げるな、自分。
「主よ、」
胸の傷はさっきからズキズキする。

でも、痛くないよこんなの!スフィア、情けないぞ前を見ろぉ!
そして声の限り叫ぶ。
「汝が子スフィアが粗なる力を振るうを許し給え!」
「だっ、黙れガキ、がぁ……氷戟、ヒャド!」
「でやぁ!」
杖を振り回して氷のつぶてをたたき落とす。そのせいで手がじんじんするけど、そんなの大したことない。それにもうこの人も、頭に来て魔法連発したから体力はほとんど無くなってるんだ。さっきのだってだからこそたたき落とせたんだろうし。隙を見て杖を振り上げ、
「バギ!」
「照炎、ギラ!」
真空の刃は炎と相殺される。けどそのお陰で決定的な隙が出来た。走り込んで、体術で一気に決めてやる。
「はああああ!」
「甘いよ!」
貴婦人が杖を振り上げるとそこから火の玉が飛び出る。そんなこと考えてもなかったから、肩に魔法はクリーンヒットして私は仰向けに倒れた。

肩が焼けて痛い。顔をしかめて耐えようとしたけど、今度はもう駄目だ。庇うのに精一杯で立てない。その中でうっすら開けた目から見えた貴婦人は、ハアハアと荒く息をしながら、でも勝ち誇った顔だった。
悔しい。
私は、勇者のパーティのくせに盗賊なんかに負けたんだ。
「泣いちゃって。ははは、やっぱガキねぇ?」
「泣いてません」
「ふふん、どーせ負けて悔しいってんでしょ?」
「っ……」
言い返せ。
「お・子・様。相手の実力もわからないくせにこんなとこでママゴトやってんじゃないわよ」
「……!」
言い返してよ、私……!

盗賊はそのまま私を見下ろして言う。
「ったく、もういい寝てなさい。アンタは今までで最低最弱の敵だったわよ。顔は良いから売ったら高いだろーけどねぇ……あ、名前くらいは教えといたげる。カンダタ一味筆頭の美女盗賊、マリア=ダランシャよ。じゃあね」
そして魔法の詠唱を始める。終わった、負けたんだもん。がんばったよ自分なりに。あとはカーム君達に任せよう。きっとみんななら、
「立てオラぁ!」
そうそう、こうやって元気に……って、え?
「いつまで寝てるつもりなのさ!早く立て!」
ジャイナ、君?
「なんで……」
「早くしろ、そいつもう詠唱終わるぞ!」
うるさいなあ、そんな必死に叫んじゃって。バカみたい。

……ていうか私何やってるんだ?

「もう終わったわよ。ラリホ」
「マホトーン」
「ー!?」
あ、効いた。だって全然眠くなんないもん。
「私って本当詠唱要らないんだなぁ……」
「いっ一体何したっていうの!?」
「あー、詠唱破棄です。さて、と」
ぱんぱん埃を払って立つ私に、マリアとか名乗った盗賊はあまりの驚きで声も出ないみたいだった。肩の痛みも時間が経ったせいで大分楽だ。
「ジャイナさんや」
「何かねスフィアさん」
「勝ったの?」
こくんと頷いたのを見てほっと息を吐く。後は私だけだ。良く考えたらジンさんもジャイナ君もこんなとこで負けるはず無いもんね。
「じゃ、1分待ってて」
向き直るとマリアは杖を構えて怒り心頭の顔つきだった。
「卑怯者!」
大声で喚き散らす。
「何がです?」
「よくも騙したわね!泣くなんて芝居まで打ちやがって!勝つためなら何でもするっていうわけ!?」
「しますよ」
「はぁ!?」
カーム君は、お父さんを越えたいって思ってた。
私は、そんな目標すら無かった。
でも、今はこの弱い自分を越えて先に進みたくてしょうがない。越えたいって思うんだ本当に。
「だから、今は黙って寝てて下さい」
瞬時にマリアの懐に入り、その細い首に手刀を叩き込んだ。



「でさぁ」
「何?」
「何してんの?」
「腰抜かしてるの」
「……あのねぇ、何で僕には敬語じゃないわけ?」
「なんかね、君は敬えない」
「ショーック!?」
大丈夫、ちょっとウソだから。それにしても、すごく心残りだ。
「助けられちゃったなぁ……」
「え?」
「私1人じゃ勝てなかったよ」
ジャイナ君が叫んでくれなかったら、絶対そのまま言いなりになって負けてた。
「僕何もしてないじゃん」
「してるってば」
「でも戦ったのはスフィアじゃん。ほら、そんなの気にしてる暇があったらさっさとカーム助けに行かなきゃ。ジンはもう行ったよ」
行きたいのは山々なんですよ。でもね、今腰が立たなくってどうしようもないんです。情けないったら……?
「ほれ」
そう言って背中を向ける。
「どーしろって言うの?」
「乗れ」
「……ん?」
するとジャイナ君はじれったそうに、
「ああ良いよもう!」
「っわぁ!?」
私をおんぶして駆けだした。

あの、これってかなーり恥ずかしいんですけど。

「ちょっ、何してっ!」
「ほらお姫様、気を付けないと落ちますよ!」
「それはそうだけどっ……」
ああもう勘弁して。
「カーム、今行くぞぉー!」
「……」
カーム君にこの真っ赤になった顔を見られませんように。それだけを切に願った。

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