Fantastic Fellows4 - Calm
なんか居心地良くて、俺はそのままカウンターでうとうとしていた。

それも、耳元でスフィアに大声で呼ばれても気付かないくらいに。

「……ーム君、カーム君!」
相当ぼーっとしていたらしい。もうウトウトのレベルじゃない、熟睡しかけてたみたいだ。隣でスフィアがこっちを覗き込んで肩を揺すっている。まだ眠かったんだが、俺は顔を上げる。
「くぁっ。う〜……いまぁふぁんじ〜?」
「何寝ぼけてんです!も〜、2人ともこんな時間になっても全然帰ってこないしこっちはすぐ帰るって聞かされてたからずっと心配してでもやっぱ帰ってこないし何時間待ったかな確か2時間うんそのくらいかしら両方とも怪我人だし何かあったんじゃないかと思ってそれからずう〜〜っと!私この寒い夜のアリアハン中探し回ったんですから!!」
「スッスイマセン!」
ものすごい勢いで捲し立てられて、こっちもぱっちり目が覚めた。

なんかスフィアは、ジャイナから俺の母さんの家に挨拶に行くからって聞いたらしい。旅に同行するんだから当たり前でしょ、みたいな感じで。
すぐ帰ってくるならいい、とスフィアは納得したらしかったけど、おかしい。挨拶なのに全然帰ってこない。不安でお手伝いさんに聞いてみたら案の定「そんなの聞いてません」。それで城じゅうで大騒ぎになっちまって、スフィアは、
……念のために俺の家に行ったらしい。
あの、表向きには勇者の家、裏向きにはある意味アリアハン一タチの悪いおばはんの家へ。
最悪だ。俺に出来ることは頭を抱えることのほか無かった。
「ぐす。カーム君のお母さん全然解放してくれないんですよ…なんかホントどうでもいい立ち話一時間も聞かされちゃって」
ああ、ホントなんて謝れば良いんだろ。
まだ続きがあるみたいで、スフィアは続ける。
「その内容がカボチャスープの作り方だったんですけど、なんか途中から「カボチャさえあれば……うん、スグできるわね!」とか言って」
ぐすぐす鼻を啜ってるスフィアに俺は、おもむろに聞く。これ多分当たってる。
「んで作り始めたんだ、カボチャスープ」
頷くな、頷いたらお前それ駄…
「そうなんですよ。もう、なんとか隙を見てとっさにここに逃げ込んだんです。そしたらカーム君はいるし」

ぁ……ああ。もうヤダ今すぐ消え去りたい。
「ホントごめん……」
項垂れて、俺は今言える精一杯の謝罪の言葉を言った。
「もういいです……こりごり。すみませーん、ブランデー一杯頂けませんか?」
「ブっブランデー!?あんた何歳だよ!?」
俺が狼狽して聞いても、しらっとスフィアは言う。
「17です。でも私ザルだから♪」
おいおい、俺より年下だと思ってたんだけど。
あきらかに17とは言い難い童顔だぞ、おい。
ルイーダもさすがに呆れた顔をしていたが、何の気無しに5秒でスフィアがブランデーの入ったコップを飲み干したので、俺も流石にびびる。これで一つ違いか。ははぁ、潜った修羅場の数が違うって訳ね。白い肌は赤くなってすらない。
多分今一番場違いなの、酒飲めない俺だけだ。
意気揚々と6杯目のブランデーを飲むスフィアを見て思った。


おもむろにルイーダが尋ねてきた。
「そういえば、仲間は順調に集まってるの?」
……あ。
「考えてなかったかも」
「ぇえっ!?どうするつもりだったんですか?!」
スフィアが驚いて聞く。
ブランデー片手に。
何だテメェ本気でザルか。
全然平気そうじゃねえ?俺酒のニオイだけでむせるのに。一応心の中で突っ込みを入れつつ。
「別に?当日に行く人手上げて?はーい!みたいな展開を待ってたんだけど」
これにはルイーダもかくんと肩を落として苦笑い。なんだなんだ、やっぱ甘かったか?
「ダメ、か?」
「ちょっとそれじゃアテ無いかもしれないわね」
そう言ってルイーダは黒い、古ぼけたファイルをおもむろにカウンター下の引き出しから取り出した。
「何ですか、これ?」
スフィアはきょとんとして尋ねる。いいからお前はその酒を置け。
「代々のルイーダの酒場に伝わる、冒険者リストよ。全世界のギルドから選りすぐった人間がここに載ってるわ…もちろんジャイナ君もスフィアちゃんも」
ルイーダはそのファイル片手にスフィアの方を向いてウインクした。いきなり名前を当てられてスフィアも感心したように溜息をもらした。
「それから、エリーちゃんもね」
「……そっか」
何故か空気が淀んだもんだから、事情を掴めないスフィアは首を横に振った。そして気を取り直して言う。
「じゃっじゃあ、誰かいい人探しません?例えば先陣切って戦ってくれる肉弾派の戦士さんとか!」
「あー、そだな」
しみったれてばかりもいられないしな。
一応出発はもう明日中に、そう王にも伝えてあるからなんとかアリアハン内に住んでる戦士を連れて行かないと。
「あ、この人なんてどうです?最近ジパングから流れ着いたっていう、剣士ジンさん」
「ん〜……ジパング人ってなんかひょろっとして弱いイメージしか無いからなぁ。ここは無難に大斧使いのロイドくらいがいいんじゃねえか?」
「う〜ん、たくさんあり過ぎて迷いますねぇ♪」
「ああ。ってお前なんか酒臭っ!」
「ブランデー8杯は行きましたから〜ん」
ああ、酔ってる酔ってる。早急に決めて早くこいつ連れて行かないと何が起こるかわからない。
そんな俺の予想は見事的中することになる。


スフィアがついに10杯目のブランデーを注文すると、2,3人の男が寄ってきた。ゴッツイ、戦士風の男共だ。
俺にじゃなくて、隣のスフィアに。
「なぁなぁ、1人で飲んでないで俺たちの所に来いよ」
「ああ、面白い話聞かせてやるぜ〜」
なんかスフィアも目が据わってきてて、ああこりゃ酔ってるな。へらっと笑って言う。
「嫌ですよぉ〜。誰があなたみたいなむさい男と飲むんですかぁ〜?」

やっばい。

そう思ってちらっと見るが、やっぱり男の顔が変わってる。相手は17そこそこの相手からすりゃガキで、そんな奴にむさいなんて言われた日には、
「なんだとこのクソガキぁ!」
まぁそうなるわな。
なんか隣が殺伐としてきたので、俺も止めに入ることにする。ルイーダも頭抱えてるし。只でさえ腕っ節の強い冒険者が集まる所だ、こんな小競り合いはしょっちゅう見る。
「まぁまぁ、こいつも酔っぱらってるし…前言撤回して俺の方から謝るから。な、だから落ち着いて話そうよおっちゃん」
「チビはすっこんでろ!俺はここらじゃ有名な大斧使いのロイドだぞ!テメエの指図なんか受けるかよ!!」
……ああ?
そいつは、俺にそう言ってまたスフィアに向き直ってぎゃーぎゃー捲し立て始めた。周りのヤツらも一緒になって言う。スフィアはまだヘラヘラ笑ってる。
つか。
テメエそれでジャイナやエリーと同じリストに選ばれたの?
酒飲んで太ったとしか思えないでかい腹に油でテカってる赤ら顔。
武装してなきゃどこにでもいるじゃねえかこんなオヤジ。
ピンク色の鎧なんか着ちゃって、センス悪いんじゃない?
つかリストに載ったのって自分で忘れるくらい前なんじゃねーの?

なんかさあ、むかつくんだけど、オッサン。
頭の血管からプチンていう音が聞こえた気がして、俺は静かに立ち上がった。んだけど。
「こんのクソガキこっちが甘いこと言ってりゃへらへらしてやがって…」
急に、その男の声がすぼまる。どこからやって来ていたのか、背後に立つ白装束の男が片手で、片刃しかない妙な剣をその男の首の真横に突き立てたからだ。瞬時にそのオヤジも凍り付く。
「テッテメェ誰……」
男はさらにその剣を近づけて軽い口調で言う。
「あんまり騒がれると酒が不味くなるんでのう?」
ジジくせぇ喋り方。だけど、立ち振る舞いから何からタダモンじゃない雰囲気を放っている。腰の辺りで帯を締めて、肩の辺りまである黒髪は、簡単に後で纏めてあった。不思議な、ボタンのない服を着ている。確かこれはジパングの民族衣装だったか?
……あ。
心当たりがある俺は、反省する他無かった。スフィアの方がよっぽど先読めてるじゃないか。比較的細身の体からはロイドとは全く違う、戦士独特の重苦しい気迫がビシビシ伝わってくる。
こいつ多分強い。
後を向こうとした男に、そいつはまた続ける。
「動くなよ。下手したら首跳ぶんでの」
周りの2人も凍ってる。
と思ったら、片方が背中に背負った剣を抜い……
「ちゃあダメだぞそんな物騒なモン」
俺が瞬時に首に手刀を喰らわせて黙らせた。床に寝っ転がってスリーピン、だ。
こちらを向いてふと笑い、最後に一言そいつは言った。
「まだ続けるつもりならこちらも考えるがのう」
まるで赤子をあやすみたいに、面白そうに。
でも、気迫はそんな生やさしいものじゃなかった。

決まり悪そうに、倒れた男を背負い、そしてブツブツ言いながらあいつらは出て行った。二度と来るんじゃないこのタコ。
「すまん、怪我とか無いか?静かに酒を飲んでおったのに、あやつらがあんまりうるさいからついの」
スフィアは笑って無いです、と返事をした。俺の方に向き直り、そいつはニカッと笑った。大体、20くらいの男。ふむ、とアゴの無精ヒゲをさする。
「お前、なかなかやるのう」
「あんたにゃ負けるさ。あいつ、リストに載ってる戦士だぜ。そいつ酔っぱらってっから、俺から礼言っとくよ」
座るように促すと、かたじけない、とか言ってそいつは隣のイスの上に正座した。
「おかしなことすんなぁ」
「む、これはクセじゃし仕方ないんじゃ」
「んでなんか喋り方変だぞ」
「儂の国は皆こんな感じじゃ。して、お前こそどうした?」
「なにが?」
「子供の居る時間じゃあるまい」
「俺はもう16だ。歴とした大人だよ」
抗議して、拗ねる。やっぱまだガキっぽく見られちまう。2人に、特にスフィアにいきさつを話そうとも思ったが、やっぱ止めた。スフィアももう半分意識飛んでるみたいだし、話すと長くなりそうだし。そいつはすまなそうに言う。
「すまんすまん、気付かなんだ。ああ、儂はジン。ジパングから来たんじゃ」
ふぅん、今ジパングは鎖国してるって聞いたけどなぁ。聞くと、苦笑してジンは答えた。
「今祖国で大変なことになっておっての。それでここに参ったのじゃが……すまんが、勇者殿に伝えてくれんか?酒場に登録はしてあるから儂を仲間に入れてくれ、と。どうしても彼の力が必要なんじゃよ」
「勇者って。俺だけどさ」
「えっ!?」
なんかそこだけは自然に驚かれてしまった。心外な。
「いいけどさ、大変な事って何?」
「……言えん」
なんで?
「普通そういうことって、仲間に相談しておくものじゃないのか?」
「これだけは国外では言ってはならんのじゃ。祖国に着いたら、また話す」
ってことは、いわゆる国家機密ってことか?
「……儂1人ではどうしようも無い、悪が儂の国を荒らしておる。それ以上は言えんのじゃ」
すまぬ、とジンは頭を下げる。
「しかし、国の仲間のためにもどうしてもやるしかないんじゃ。頼む、儂を連れて行ってくれ……!」
なんか良く分からないけど、ジパングがヤバイってことだけはなんとなく分かった。それがジンの旅の理由か。魔王退治もしてみない?なんて。
今は隠しておいて、ジパングでそれが丸く収まったら聞いてみよう。
「いいよ、連れて行く。腕も良さそうじゃ」
「うつっておるぞ」
「あ!もー、で?どうなの」
「もちろんじゃが……お主、案外軽いのう……」
「性格だよ。んじゃ明日、ここにいてくれるか?俺の仲間が行くと思うから。おーいスフィア、自己紹介して」
「す――……」
「あら――……」
すっかり寝てやがる。俺を連れに来たんじゃないのか。
仕方ないのでジャイナのことも一緒に、簡単に紹介する。エリーのことは伏せておいたが。
「……ってわけだ」
そうか、と言ってジンは俺を見る。
「儂にはさっき話したようにどうしてもやらねばならんことがある。危険なことじゃ。協力してくれるか?」
真剣な瞳で語る。
旅は……なんだっけ、ああ、旅は道連れって言うしな。旅の目的一つ追加だ。一応、俺勇者だしな。よし、ここはクールに行こう。
「もちろん。こいつを城まで運んでくれたらな」
ジンは笑って、良しと頷いて、スフィアを背負って出て行く。
クールに行けたかどうかは、ジンの僅かに見せた苦笑が物語ってた。
「どうせ向いてませんよーだ」
俺はスフィアの酒代をツケて、ジンが行ったのを見送り、ふくれっ面で酒場を出た。

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