薄暗い路地。細い裏道のさらに細い脇道を少し入ったところにある、人1人通れるかどうかの狭い脇道だ。
僕はそこで、うずくまっていた。
…他人が見れば死人と間違えるような状態で、だけどさ。
「…くっさ」
なんだこのニオイ。
横を向くと、あるのは木製の汚いゴミ箱。
ああ、そうか。表にあるのはメシ屋みたいだったし。中身はどうせ生ゴミだろ?何となく納得して1つ息を吐く。
「…まずったなぁ」
そう呟いて、なんか口の中に違和感を感じた。どうも奥歯が一本外れかけてるみたいで、指突っ込んで抜く。これじゃあもの食べるとき不便だし、なんとかしてもう一度元に戻せないかなぁ。…って思ったんだけど、ローブの裾に入れたらそこに穴が開いてて、歯はそのまま道の脇の溝川に転がって落ちた。
…こんちくしょう、全部あいつらのせいだ。
左目の上が切れてて視界が狭い。腹はしつこいくらいボディーブロー喰らったせいで死ぬほどズキズキする。唇はいつもの3倍くらいには膨れてるだろうな、多分カームに見られたら絶対笑われる。
「…手加減してほしいよ全く」
手ぇ出せない方の身にもなれ。
…じっとしてると本当にこのまま死にそうだ。
とりあえず、腰にある紙タバコの入ったポケットから震える手で一本取りだして血だらけの唇でくわえる。マッチを擦ってタバコに火を付けて、肺に煙を入れたらやっと気分も落ち着いた。何の意識もしてないのに、口から出た煙が輪っかになってるのはクセかな。
そんなどうでもいいことを考えて、ちょっとどうでもよくないことに気付く。
なんとなく、横にあったゴミ箱を頼りにして立ち上がろうとしたらかくんと腕の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
え?
もう一度。
ダメ。
もう一度。
同じ。
…おいおい。
そのまま脱力して道に倒れ込んだ。どーせ、こんなとこ人も来ない。仰向けになって、タバコを吹かした。建物と建物の小さな隙間から見える薄暗い空に煙を吐く。輪っか。
なんか、人間ってやばいときは笑うんだっけ?
…まさにその通りなんだねぇ…。
「あっはっは」
参った、立てないや。
なんか、唯一保ってたはずの意識も薄れてくる。そして聞こえてくる、…足音?
「……!」
…何言ってるんだ?つか目がとうとう暗み…はじ…め…。
「…!……!」
だから、聞こえ…な…。
「…やがれこの天パー!!!」
「がふっ!?」
聞き慣れた声と共に、拳が僕のみぞおちに入った。
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