Something what I can do.2
本文へジャンプ Calm  

あれからみんなと別れてからしばらく歩いて、この街のデカさをつくづく思い知らされた。

 

町の中心部にはバカデカい噴水があるわその奥の城は近くで見れば見るほどやっぱしバカデカいわ。何だ、どんだけ金があるってんだこの国は。

そんなデカいもんづくしの中央広場は嫌になって、今は普通の商店街の入口の辺りにあった普通の果物屋。品揃えはほとんどアリアハンのそれと変わらない。

だけど、店先で俺は声を荒げる。

「だぁーら3個で10ゴールドは高ぇっつってんじゃんよオヤジさん!」

「ガキが大人の商売に口出ししてんじゃねぇ!俺っちがロマリアに流れて来て早5年…」

店のオヤジはがしっと、手前のでかいのを掴む。

「ここのリンゴは3つで10ゴールドって決めてんだ!年中大セールなんだよウチは!」

…何やってんだとか言うな、悲しくなるから。

「だぁからそれが高ぇっつってんの!おっちゃんさぁ、アリアハンの相場がいくらか知ってんのか?これだよこれ」

俺が左手を開いて数字の「5」を作ると、小バカにしたように鼻で笑う。

「馬鹿野郎、安すぎらぁ。しかもテメエみてぇなナリのガキがなんでアリアハンなんてクソ遠い場所の相場を知ってやがる!いっちょまえに頭環なんて嵌めてやがって。ふざけんのもいい加減にしやがれ!」

…なんだこいつ?面白すぎるぞ。まあいいや、乗って来たんだし。

「じゃあ…こんくらいでどうよ」

「何ィ?」

俺が両手で合わせて七本指を立てると、オッサンはしばらく岩みたいな顔で考えて、9本指を立てた。

「甘いぜおっさん。まだだ」

俺はさらに1本立てる指を減らす。

「くっ…帰ぇんな!そこまでは安く出来ねぇ」

「へぇ?じゃあ行っちまおっかな〜。あっちでもうちょい安い店見たからさ〜」

俺は奥にもう一つある店を眺めつつ目配らせする。すると、

「ちょっちょっと待て!あっちの果物は安いが所々腐っててマズいぞ!」

「なら腐ってるところは喰わないで大丈夫なところを喰うさ。よォよォ、高すぎるもんよかマシだぜ、おっさん?」

「くっ…なら7だ!」

「4だよオッサン」

「6!これ以上は無理だ!」

「…さーて、行くかな」

「あーもう分かった俺の負けだよガキンチョ!いいよ持ってけ4ゴールドだ!」

「へっへ、毎度あり♪」

ちゃりんと音を立てて、予定より大分少ないゴールドを渡す。アリアハンじゃあもうちょい粘るんだが、新しい土地だしこんなもんかね。まぁ勝ちは勝ちだ。

「じゃあおっさん、周りのヤツらが値切ろうと目ぇ光らせてるぜ。上手いこと捌きな〜」

「ちょっ…オイ、ガキ!ああいらっしゃい…まっ待てー!」

俺がそそくさとその場を後にすると、ものすごい人だかりがその果物屋に出来る。がやがやと安くしろだの何だのと声が聞こえて来た。当たり前だ、そいつらも俺みたいなのの交渉で一気に半額以下になるような光景見ちまったんだから仕方ねぇよ。とりあえずはさっさと逃げねぇとあのオヤジ包丁持って追いかけてくんぞ。

久しぶりに、なんか笑った。

「はっはははは…は」

んだけど。

笑いはそんなに続かなかった。リンゴをひとつ頬張る。

「………くだらねぇ」

何やってんだよ俺。

 

 

 

 

 

ふらふら、街の通りを歩きながら思う、俺は成長したのか、って。

 

正式に勇者っていうことが身近な存在になって、だから俺はもっと何か出来るんじゃないかと思ってた。いや、世界に出たら何か出来るようになるんじゃないか、って。その気持ちは2年前旅立ったそのときと変わらなくて、今度のは魔王を倒すっていう明確な目標があるだけ。そのために俺は王に死ぬほど鍛錬された。

 

それで?

 

…こんな様か。

 

もう一口リンゴをかじる。

良いリンゴだ、甘い。

けど、俺の思考はグチャグチャ。

 

みんなと居るときはそんな風にしてちゃダメだってこと、わかってる。でもやっぱり1人になるとこういう風にイヤな考えが頭を巡って…いけない。悪ガキ根性丸出しで粋がってはお山の大将気取ってて。そのクセ仲間1人守ってやれなくて?しかもジャイナにはああ言ったけど、本当はめちゃくちゃ心の中で怖がってる。本当にエリーを俺が助け出して良いのか、って。あいつは本当はもう――――

「…くだらねぇ」

もう一度言って、リンゴをかじった。

情けなくて涙も出ない。他の最もらしい勇者気質のヤツが見たら、地の果てまでぶっとばされてるんだろう。それで構わないと俺は思う。こんな情けない勇者いらねぇだろ。父さんみたいに火山の火口まで剣突っ立てて死ぬのが世界の「勇者」の規準だろ?でも俺みたいに何も出来ないヤローが強がって強がって、後に何が残るっていうんだよ。

そうやって死ぬってんなら、俺は嫌だ。

 

正直言って、まだ死にたくない。母さんにも死ぬなって言われた。出来るなら、盗賊ギルドに行くっていうジャイナを止めたかった。どうせそういうところにゃ決定的な証拠がある。本当の「勇者」だったら、そんな仲間の存在を喜ぶんだろう。

でも…でも俺。そんなすげぇヤツと戦って、死んだら。そう思うと、たまらなく怖くなっちまった。

 

 

俺、カンダタと戦ったりとかすんの、怖くて仕方ねぇんだよ…!

 

 

 

エリーの手紙の字面には、カンダタから助けてくれっていう言葉が不器用に隠されて書かれていた。それがすぐわかったのはあんな丁寧な手紙をエリーが書くわけ無いから。「関わるな」なんて言うわけがない。本当に避けて貰いたいなら盗賊団の名前なんて出さないだろう。誰にあの手紙を渡したのかわからないけど、その渡された人間がもしカンダタと交流のある人間だったらっていうことまで考慮した手紙だ。ちょっとそれにしては文が単純だったのはあいつが字を上手く書けないから。

エリーは字なんて書いてる暇があるような生活をしてなかった。いつも汗まみれで働いて、スラムのガキ共養って。エライヤツだよ、本当に。

そこまでわかってて、…俺は怖くなってその手紙を燃やした。

汚い、最低の男だ。逃げる口実をなんとか作ろうと必死になってる。俺はあいつを助け出したい。だって仲間だから。でも、助け出す勇気はこの掌に宿ってくれない。どんなに強く握り締めても。

俺は…俺は…俺は…!

心を強く殴りつける。けど、それに答えて立ち上がる心は、俺には無い。

…畜生。

「どうしろって言うんだよ!」

「どうもしなくて良いよ」

聞こえた声に驚いて振り返ったら、そこには青髪の見慣れた僧侶が珍しく無表情で立っていた。

 

 

しばらく呆然として、じっと目を見てたら、スフィアがその表情のまま唐突に口を開く。

「ちょっと来て」

「え…おい」

俺は手首を捕まれて、スフィアはそのままずんずん商店街を歩いていく。なんだ?こいつ…。

「なんだよ!」

「いいから」

こっちを振り返ることもなく、スフィアは歩いた。

 

 

 

 

 

2、3分歩いたら、小さな公園に着いた。

「なんだよ」

「何?」

「ロマリアってのは何でもデカいもんだと思ってた」

「…そう」

…どうした?こいつ。

なんか…変だぞ。俺がそのことを言おうとすると、またスフィアは俺の手を引いてくたびれたベンチに向かって歩き、そのままそこに腰掛ける。…手を離さないつもりのようで、俺も仕方なく隣に座った。そうしたらスフィアもやっと俺を解放してくれた。なぜかそのまま俯く。

「「…………」」

………………………………沈黙。

……頼むからなんか話せよ。

…ったく。

「「あの」」

…最初の一言被ったぁ…。

………………………………沈黙。

もう、訳わからんわ!

「どしたん?」

おお、被らなかった。するとスフィアは、何か決心するように顔を上げ、真っ直ぐ俺の顔を見て言う。

「あたしって、やっぱり邪魔なのかな」

…はぁ?

「邪魔って…どういうことだよ。しかもやっぱりって…」

すると悲しげな顔で溜息を吐く。話そうか、話すまいか迷ってる顔だこりゃ。

「何だよ、何かあったのか?」

俺が訊くと、しぶしぶ、という感じで口を開いた。

「みんなすごいなぁ、って」

「ん?」

話の意図が見えてこない。すると、今度は本当に真剣な顔でこう言った。

「何て言うかその…さっき、見たんですカーム君が果物値切ってるの。それ見て、すごいなぁって」

…俺が思わずベンチから滑り落ちたのは言うまでもなく。

落ち着け、整理しろ俺。

てことは…あの果物屋んところでスフィアは俺を見かけて、んでそっから後でもつけてたんだろ。それで「すごいなぁ」?

「痛たたた…ごめんな?良い?あのさ、話が見えてこないんだけど」

「だから!あたしなんかよりみんなすごいなぁって思ってるんです!それなのにあたしだけ宿屋じゃ1人部屋だし戦闘じゃ真ん中だし」

 

ああ、なるほど。

 

そういう葛藤もあるな…。

それで「すごいなぁ」、か。

「まだ旅なんて始まったばっかりだって言うのに自分だけ特別扱いされてるんじゃないかって思うとこんな風に気にしちゃって…。ジンさんには、大事に至らなかったけどあんな怪我させちゃうし。カーム君は歳も近いし、ジャイナ君とかよりこういうこと話しやすいかなぁって思って」

「…やっぱジンの怪我のこと気にしてたんだ?」

「はい…あたしイシス飛び出してダーマでいろいろ修行して、それなのにこんな風におんぶにだっこで旅なんか続けられるのかなぁって、すごく悩んでたんです。顔には出さないようにしてたんですけど、やっぱそういうのって苦手で。どこかで吐き出さないと、あたしの場合オーバーヒートしちゃうし…」

そう言って俯いて、すごく真剣な顔をするスフィアを見る。

 

なんかこいつ、すっげーうらやましい。

 

なんでそんな純粋に生きてられるんだろう。

 

「すごくなんて無いよ」

スフィアは幾分驚いた顔をして、俯いてた顔を上げる。

「みんな、すごくなんて無い。しかも俺は、ホントそれ以下だから」

スフィアは、ただ何のことかわからないって顔をした。



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