Something what I can do.5
本文へジャンプ Calm 

朝だ。

 

誰が何と言おうと。

例え時計の針が11時を差していようと俺が朝っつったら朝なんだ。

「んー…じゃ、行ってくるよ」

宿屋の出口で伸びをして、誰に言うでもなくそう呟く。

空には太陽。
薄い雲が西の方にあるだけだし、今日は風もないから雨は降らない、多分。
風もないのに髪が乱れてるのは寝癖だ畜生。どうしても直んないから仕方なく、そのままで通りを歩くことになった。
そーいや、城に行かなきゃなんないのは俺だけだし他の3人は時間を無駄に出来ないからって街の外に鍛錬しに行った、らしい。俺は部屋にあった書き置きしか読んでないし、ホントかどうかはわかんねぇ。ジャイナなんて特に怪しいし。遊んでやがったらぶっとばす。

…勇者の言う事じゃないって?まぁそう硬いこと言うな。

それにしても、忙しい国だ。

宿から少し歩いて陽の当たる表通りに出ると、とにかく色んな人が流れてる。
町の人はもちろん商人や郵便配達、警察だか兵士だかわかんねぇけど腰にサーベルを差したヤツ。レーベとは大違いだ。さっきなんか商人の馬車の荷台に縛り付けてあった布の隙間から抜き身の鉄剣やら鎧やらがばらばら落っこちてきた。
派手な金属音を立てて、そこらじゅうに物騒な武器が散らばる。

「わぁあああ!大変だ!」

馬の手綱を握っていた女は急いで馬車から降りて品物を拾っては乱雑に荷台に積んでいく。…商品痛むだろあれじゃあ。すぐそこを歩いていた俺は舌打ちをして、でもとりあえず落っこちたヤツを拾う。拾った剣を渡しながら、

「商品なんだろ…大事にしろよな」

「ああ、悪い悪い急いでてさ。拾ってくれてんの?」

「そんなことよか、早くしねーと盗られっぞ」

「どうも、ねっ」

言いながら、そいつはまたごしゃ、と武器を押し込んだ。

 

やっと荷物を積み終わると、商人は礼として飴玉くれた。

「ありがとうね!」

「…」

「あっあれ?一個じゃダメ?」

「…いーですけど」

そっちじゃねぇよ。

「…飴か」

「ああ、それおいしいんだよ。じゃ、助かったよ、ありがとう!」

俺のつぶやきとか一切無視で、笑顔で馬車に乗り込んでその商人は行っちまった。俺は飴を口の中でころころ転がしながら、道を歩く。

「おいしいけどさぁ」

もう、別に良いけど。街出るまであの荷物保てば良いけどよ…。

 

しばらく広くてきちんと整備されてる道を歩くと、中央広場に出た。

でかいっつってんのに。

まぁその辺のもんにつっこんでても仕方ねぇ。俺はその中でも一番でかい王城に行くんだから。

 

 

 

どうも昨日の衛兵の話はホントだったらしくて、門番の兵もいっそ気味が悪いくらい快く入場させてくれた。城門くぐればあとはまぁ予想通りっていうか何て言うか、

「広いんだよ…」

でもまぁ、どうもそれっぽい階段はあった。一際目立つ、幅の広い階段。入口からずっと赤い絨毯が敷かれてる辺り、どーもアリアハンと造りはそんな変わりないらしい。そんでその辺にいた城の役人みたいな女に謁見の時間とか尋ねたら、なんか…いつでもいいらしくて、俺は少し呆れた。

「こんなでかい国の領主のくせして軽いもんだなぁオイ」

「本当に…こんなオープンな国、他に無いと思いますよ」

その女の役員も誰が苦労するんだか、なんて愚痴っぽく言って、俺が礼を言うと軽く会釈してそのまま奥の通路を早足で歩いていった。…どこの国も、色々あんだな。

「…さて」

行くかね。

俺は水付けても直らなかった寝癖を手で撫でつけて、やっぱ無駄な努力だったことを知りつつ階段を上がった。

 

 

 

扉の前の兵士に挨拶して、重みのある扉を開いた。一歩進んで、片膝をつく。

「勇者カーム・カレージ、アリアハン大陸より参上致しました」

「おお、はるばる良く来た勇者カー…ムゥ!?」

「初めまして王さ…まぁ!?」

意味不明な声に、そこに居た姫も変な顔をする。

 

でもな、ちょっと良く考えてみろよ。

 

こんなことってありえねーよ。普通理解出来ねーって。

俺は愕然として叫ぶ。

「アンタは!」「お前は!」

「「八百屋」」

「にいたオヤジじゃねーか!!」「に来たクソガキじゃねぇか!!」

そうして、同時に決め台詞を。

「「何してやがる!!」」

 

…な?ワケわかんねぇだろ?

 

 

 

 

八百屋のオヤジ、もとい王は、納得行かぬとかなんとか言って出て行った。どういうリアクションを取って良いのか良く分からず、とりあえず俺は頭を抱える。

「悪い、ちょっとこんなリアルな夢って初めてなもんで」

呻くみたいに呟くと、隅の方から音もなく細身の、王の側近としちゃかなり若い男が寄ってきた。

誰?こいつ。

「あのー…それで、王とはどこで?」

「あー、八百屋だよ、ほら、商店街の入口辺りにあるヤツ。さっきの反応見てると間違いはねぇな。…つかあんた誰?」

「私ですか?フィリップと申します、よろしく」

にこやかに手を差し出すので、一応握手しておく。

「そうじゃなくて。えっと…官職っつーの?あっちがお姫様?で、あんたは…どう見ても近衛兵とかじゃねーよな」

目線を上下しても、こいつ…フィリップの服はどう見てもこの城のごく普通の制服姿で、さっき話した役人とほぼ変わらない。性別の違いでデザインが微妙に違うくらいだ。すると、

「へ?ああ、大臣です」

フィリップは俺の問いに一瞬キョトンとして、それでも取り繕って笑顔を作りつつ言った。見ても歳はまだかなり若い。大体20代後半?へぇ、人間やりゃ出来るもんだな。ふーん、ああそう。

「とか言うと思ったかぁ!」

「ひぇ!?」

言ってねぇよ。そんなんでわかるかと自分に突っ込み、呼吸を整える。ダメだ、なんかこの国来てからずっとペース乱されてる…。

「悪い、いいか?」

そう言って俺は鞘ごと剣を肩から外す。

「はっはい?」

フィリップはたじろいで後ずさる。すかさずその頬に、

「ふざけてんのかてめぇええええ」

剣の先を押しつけた。

「ふっふざけてないでぶっ!ほっほんろでふっへ(ホントですって)!」

「んなわけあるかぁ!第一てめぇ若すぎんだろああ!?」

「ふぇっ…ふぇふぺぃしまふふぁら(せっ説明しますから)!ちょっ…ほへへふらはいほれ(のけてくださいこれ)!」

俺が乱暴に剣を押しのけると、はぁだとかふぅだとか、とにかくほっとした様子でフィリップは溜息を吐いた。そして一言、

「痛たた…あなた本当に勇者ですか?」

「……」

「ほえんなはい、はんふぇんひへふらはい(ごめんなさい、勘弁してください)」

「で、マジあんた誰?」

「ぷはっ…だから大臣ですって!」

「…嘘だぁ」

「これを見なさい!」

頬を真っ赤にして、…間違えた。顔を真っ赤にしてそいつは制服の胸ポケットから手帳を取り出し、「モーリア=フィリップ・ロマリア国務大臣、ロマリア王これを認める」って書いてあるページを開いた。そのサインの横には、公の書状なんかに良く押されてる王家の紋印が。

…秘文書偽造なんてこんな堂々とやんねぇよ、な…。じゃ、本気じゃねぇか。

「じゃああんた…」

 

サ―――――…。

 

「さぁて、どう処分したものですかね」

さらに真っ赤になって怒るフィリップ。じゃなかった国務大臣。

無言で、俺はその場に土下座した。

 

 

 

「まぁ今回は君のその態度に免じて許すけど…」

「次はこんなことの無いよう、気を付けます」

「わかればよろしい」

そう言って、大臣は玉座の隣の、肘掛け付きのゆったりとした椅子に納まる。俺も土下座を止め、剣を肩に戻して立ち上がった。

「あのさ…失礼かもしんないけど」

「なんですか?」

「どうしてあんたみたいな若い人が大臣なんか?」

すると親指を顎に当て、少しだけ考える素振りを見せた後で、少し細かい部分を省いて話すよ、と前置きして話し始めた。

「この国で約4年前、静かな市民革命が起こってね。王があまりにも政治が下手だったもんだから、ホントはもっと紆余曲折あったんだけど、簡単に言うと…だったら民衆から立候補した政治の出来る人間がやればいいって話になって」

「なるほど。…もしかして、それであのおっさんが王になったのか?」

「ああ、そうだよ。彼は平民の出だったんだけど、城の役人として勤めていたんだ。それで政治経済には特に優れていてね。それであれよあれよという間に王にまで推薦されちゃって。僕はその側近だったから、そのまま大臣になった」

「ぽっと出?」

少し自嘲気味にフィリップ、じゃなくて国務大臣は、笑いながら頷いた。

「まぁ、そうなるな。で、どこまで話したか…ああ、旧王家の生活は保障するってことにしてたし、正真正銘無血革命だったってわけだ。まぁそのせいでポルトガ王家との親交も消えちゃって今ちょっともめてるんだけど。とにかく、こんな感じで今のロマリアになってるのさ」

最後えらく簡単にまとめられた気もするけど、まぁいいや。

「ふ〜ん…良く分かったよ」

平民王か…珍しいなそんなの。とにかくあの王はまだ即位して間もないってことか。で、その一番大事な時に、

「それで今回は王冠を盗まれた、と」

「…なんだって?」

俺の言葉にさっきまでの感じの良い表情は消え、一変して硬直したポーカーフェイスになった。王女もゆっくり席を立つ。なるほど、「想定外」ってヤツか。

「俺らの情報収集力をあんまナメんなよ♪」

「どっどこでっ…?」

「盗賊ギルド。仲間が命がけで、な」

そしてその動揺ぶりに俺はまた、少し呆れた。一瞬顔に出たかも知れない。でも平静を装って続ける。

「今のところ、ホシとして名前が挙がってるのがカンダタで、盗賊ギルドの連中にすら忌み嫌われているアウトサイダー。事件は4日前に起こっている。知っているのは城の一部の官僚と盗賊あたりの情報通のみで、ほとんどの民衆にはまだこの情報は浸透していない。…どうだ?まだ隠す?」

すると、フィリップは深く溜息を吐く。

「全く以て、正しい。…まぁ正しいんだがね、一体それを知ったからどうするというんです?」

「何言ってやがんだ。訳あって捕まえるんだよ、カンダタを。で、アジト教えてくれ」

「は!?」

いきなり立ち上がり、愕然とした顔でこっちを見る。急に大声を出すからこっちがびっくりした…っておい。なんだ、そんな変なこと言ったか俺は。

「カっ…カンダタを!?むっ無茶だ殺されるぞ!相手はプロの盗賊、犯罪者だ!君には魔王を征伐するという崇高な使命があるではないか!どんな理由があるにせよ、それを前にこんな場所で若い命を散らすおつもりか!」

すげぇ勢いで一気に話してくる。でも…なんか話が矛盾してないか。

「ダメだダメだ絶対ダメだ!馬鹿げてるよ!」

「そー言ったって、行かなきゃいけない理由あるんだって」

「ダ・メ・だ!」

…心の中で溜息を吐き、僅かに目を細めて俺は言う。

「魔王退治するヤツがその辺の悪党に怯えててどーすんのさ…」

「そっそれは…しかし、ロマリアも少なからず絡んだ問題であなたが死ねば世界でのロマリアの立場が…」

そう言って、次の言葉が続かなかったのか、押し黙る。

 

…あっきれた。今回は少しじゃなくて盛大に呆れた。

 
「そう、ですか」
俺が言うと、フィリップはまた笑顔になり、ゆっくり腰を下ろした。
「わかればいいんだよ。君は勇者という立場。くれぐれも自重して下さい」
「…わかった。じゃあ」
空の玉座に背を向け、出口へと歩く。すると後ろから、
「自重して下さいよ!」
…アホ。口に出さなきゃオッケーだよな?

そのまま無言で後ろ手に扉を閉め、階段を早足で下りる。
結局ここもダメだった。カンダタの犯行は4日前。どうにかして、早くアジトを見つけ出さないと入れ違いになる。
エリー…!
両手を固く握りしめて、城の出口に向かった。
「あ、ちょっちょっと!」
制服の兵士が慌てて後ろから駆けてくる。…さっき扉んとこに居たヤツ?
「なに?」
俺が驚いて尋ねると、
「おっ、王がお呼びです!」
…八百屋のオヤジ?



「アジトの場所を知りたいか?」

八百屋のオヤジ―――王が、そこに居た。
広い城内を兵士の後をくっついて歩き、長い螺旋階段を上がったところに狭い書斎の様な場所があった。

「掛けろ」

進められて、おずおずとそこにあった椅子に腰掛ける。

「…なんつーか」

「何だ」

「馬子にも衣装?」

さっきはほんの少ししか顔を合わせなかったからあんま記憶に残っていなかったけど、あまりにも昨日の感じとギャップがありすぎる。

「失礼なガキだな本当に。まァいい、さっきは無様なところを見せたな…あいつは少し権力に執着するところがあるんだ」
王は眉を寄せ、「済まない」と言った。

「まぁ普通だろあれで。つか、あんただっていきなり退出したじゃん」

「ああ、俺もまだ少し感情的なところが抜けない」
照れくさそうに笑い、それから急に真面目な顔で、
「だが扉越しに話を聞いていると、興味が湧いてきた」

「俺に?」

「それもある。カンダタにこだわる理由にも」

…そこは話せない。黙ってると、王は一瞬残念そうな顔をした。

「別に話せなくて良い。さっきの口ぶりからも、やましいことではないだろう。だがその前に聞きたい事がある」

そう言って顔を寄せる。ゴツい、本当にどっかの旅商人みたいな顔だ。真剣な目でこちらを見てくる。

「…何だよ?」

「お前は本当に勇者か?」

 

…本日2度目。

もういい、くそったれ。

 

「そうだよ」

「本当だな?偽物などでは無いな?」

「アリアハンの勇者、カーム・カレージ。さっき言ったろ?つか俺が自分のこと勇者って思ってるから多分間違いないさ」

普通の神経してりゃこんな損な商売しねぇよ、と言って自分で笑った。

「…わかった」

そう言って、王は立ち上がる。そして書斎の窓を開け、彼方の山を指差す。

「北へ行け」

「北?」

「ああ。北には山に囲まれたカザーブという小さな村がある。そこを西に折れ、シャンパーニという塔を目指せ。そこがヤツらのアジトだ。…それで、お前を勇者と見込んで頼みがある」

「シャンパーニね…で、何?」

「お前にも何か行く理由があるのだろうし、頼みづらいのだが…王冠を取り戻してきてはくれないか。あれは俺が王としてこの国を治めるにはかけがえのない権威の象徴なんだ」

頼む、と頭を下げてくるから、俺は焦った。

「わっわかったから頭上げろよ!アジトの位置教えてくれたのはあんたなんだし、俺が王の申し出蹴るような人間に見えるか?」

「…値切りは上手いがこういうことには慣れていないようだな」

「うっせぇ。…あ、じゃあ交換条件とかダメか?」
「良いが…なんだ?内容にも依るぞ」
「簡単だ。1つ、頼みを聞いてくれるだけでいい」
昨日みたいに、今度は1本指を立てる。
「具体的には?」
王はそう言って疑いの目を向ける。だが、俺も今は言えない。それでも信用してくれっつってんだ。虫が良いってのはわかってるけど。でも、大切な仲間のことだから。
「今は言えねぇ。が、どうしても聞いて欲しい」
すると、苦笑しながらだったが、王は頷いた。
「どうせ俺が何を言おうと押し通すだろう?」
俺は何も言わず、ただ口笛を吹いた。





NEXT

 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送