Something what I can do.6
本文へジャンプ Jaina 

「カームに言っちゃダメだかんね、あいつ絶対キレる」

ロマリア近くの草原。なんか誰かに聞かれてるような気がして小声で言うと、スフィアもジンも、焦った顔で何度も頷いた。ホントにこれは言えない。最初は特訓っつって北の方に歩いてったんだけど、まさかあんなものに出くわすなんて。

「でも、楽しかったなぁ…」

「ジャイナ君、目が危ないって。それにしてもカーム君大丈夫なのかなぁ…1人で王様と会ったんでしょ?」

溜息混じりに、主にこんな僕に対する溜息だったんだろうけど、スフィアは心配そうに言う。…僕だってそりゃもちろん心配だって色んな意味で。

「なんか無礼なことしてなきゃいいんだけどなーあいつ」

「そっちなんだ?」

「そりゃあもう俺らの間じゃよく知られたことだからねー、あいつが偉そうな人間見ると血が騒ぐってのは」

「…あー」

スフィアはどうも納得したらしい。何でかは良くわかんないけど。まぁいいか、と呟いて僕は大きく欠伸をする。どーにもこーにも疲れた。

「じゃー、さっさと宿帰ってメシ食おうっ」

「う…む?」

「なに?」

「いや…ほれ、あそこ」

「ん?」

ジンが指差した方角、ロマリアの街のある方向に、馬車が一台止まっている。でも、

「…あれのこと?」

「うむ。様子が変じゃろう?」

ジンは目を細めてそっちを見ている。確かに、おかしいぞ。こんな草原のど真ん中に馬車止めるなんて。それに遠くてはっきりとは聞こえないけど、馬が騒いで鳴いてるような。…あれ?

「あ」

気付いたら、隣にいたはずの青髪は、もうルーンスタッフ片手に駆けだしていた。草むらをかき分け、全速力で走っていく。

「まっ待てってスフィア!もうちょい様子見てから…」

焦って声を掛けると、

「急いで!」

振り返ってそれだけ言うと、脇目もふらずにそのまま走っていった。

 

なるほど?

 

「…あやつは何を焦っておるんじゃ?」

「行けば分かる。僕らも急ぐよ」

「?」

ジンは少し首を傾げたけど、僕が走り出すとすぐそのあとを付いてきた。

 

 

 

 

「おう」

「うわ」

僕らが声を上げた先には、気色悪い色の蛙の群。じりじりと、荷物を積んだ馬車に近付いている。

「ポイズントードだ。馬も騒ぐわけだよ」

呆然と呟くと、目線の先にもう一つ妙なモノが写る。

「っだぁあああ!もう、畜生!どっかいけぇええ!!」

「おっ落ち着いて、私は人間だから!それにすぐ仲間来ますから!」

女なのか、ターバンしてるからこっからじゃよくわかんないけど、体付きに似合わない長剣をめちゃくちゃに振り回してる。…この人武器商人かな、多分。んでスフィアはなんとか宥めようとして結局諦めたのか、走ってきた僕らの姿を認めると、必死に声を上げる。

「はっ早く!この人あの魔物に毒貰ったらしくて錯乱してて…っわぁっ!治療し、たくても近づけ…ない…んで、すっ!」

必死にその剣を交わしながら言う。

「…ったく。ジン、あいつらの相手頼む。僕はあれを眠らせる」

僕の言葉に無言で頷き、腰の剣に手を掛けながらジンは魔物の群へ駆けていった。僕も急いで馬車の方へ。

…なるほど。確かにターバンの下、顔色悪いや。

「世話が焼ける。霧の谷 人は歩を止め地に還る…ラリホー!」

女はぴくん、と動きを止めるとそのまま膝から崩れ落ちた。すぐさまスフィアがその女に解毒の呪文を唱えると、顔色は健康そうなものに治る。

「人間に殺されるかと思った…ありがと」

「ん、それより…」

「囲まれたね?」

スフィアは車に女の人を載せ、僕と背中合わせになりながら冷静に言う。

「ん、まずいね?」

「うん」

軽く言い合ってるけど、あんま状況は軽くない。そこここの草むらから、薄気味悪い蛙の魔物が出てくる。こいつらのタチの悪いところは、バブルスライムみたく毒吐いてくることだ。負けることは無いにしても、こういう手合いは群れて出てくると意外と手強い。

「すまん、あの数を儂1人、一度に相手するのはつらい」

そう言いながらジンも戻ってくる。

「大丈夫、時間稼げたから。…よし、どうしようかな」

顎に手ぇ当てて呻ってると、スフィアがぽんと僕の肩を叩く。見ると、こっち見てにっこり笑った。

「ジャイナ君はあの女の人をお願い。私達を援護して」

…へ?

「なっなんで?」

「いーから。――あ、ジンさん、とりあえずあの蛙出来るだけ引きつけてくれません?で、合図したら目一杯上に飛んでくれますか」

「承知。ジャイナ、今回はそこで見ておれ」

「見ておれ」

ジンはぴっと僕を指差して言い、スフィアもそれを真似た。

…別にいーけどさぁ。なんかスフィアこの作戦自信あるっぽいし。

「どーなったって知らないからね」

馬車の方に下がりながらちょっとふてくされて言うと、スフィアはこちらを見て苦笑いする。

「大丈夫、心配しないで。―――来た!」

スフィアが正面に振り返るのとほぼ同時、ポイズントードは一気に飛びかかってきた。

 

本当に一気に。

 

あのねスフィア、囲まれてるっつったじゃん。

四方八方から気味の悪い色の蛙が跳んできた。スフィアとジンの居ない、反対側からも。

「もー…我請う光 奔りて遍く大地を掻き消せ」

「ベギラマ」

唱えると、炎が地面を走って5,6体居た蛙は気味の悪い声を上げて消えた。もともとこっちは手薄だったらしく、もうこっちから魔物が出てくる気配はない。

「あ。ごめんジャイナ君そっちにもいたみたい」

「あとでタバコおごれ?」

「考えとくっ!」

そう言ってスフィアは、ジンを連れて魔物の群に突っ込んだ。

さて、お手並み拝見…って正面突破!?

「バギ!」

スフィアが走りながら杖を振るったときそう聞こえた、確かに。するといつの間にかスフィアの正面にいた何匹かのポイズントードは横に真っ二つになって消えていた。そしてその場をジンに任せ、走り抜けて群の後ろに回る。

今度はジンがその群の真ん中に立っていた。「ん、やるかの?」と呑気に言うと、剣を抜くでもなく、ただ笑ってた。…っておいアホか!

「じっジン!ぼーっとしてたら毒貰うよ!」

 

でも実際ジンは全然ぼーっとしてなんかなかった。

 

最初に正面から突っ込んできたのをかわすと、横から飛びかかってきたヤツの頭を掴んで地面に叩き付けて失神させる。今度は鞭のように飛んできた舌を目も向けずに片手で掴むと、その主を軽々と引き寄せて飛んできた毒液の盾にした。とにかく冷静に、しかも相手を殺すことなく着々と群を自分の方へ引き寄せていく。実戦を戦い慣れてる人間しかできない、とんでもない体術だ。もうジンの姿もほとんど見えなくなって、そのとき群の向こう側からスフィアの声がした。

「ジンさん、オッケーです!」

同時に白装束が群の中心から飛び出し、蛙の頭を踏みつけてもう一度上に飛ぶ。

「バギ!」

スフィアの声の後、群が奇妙に歪んだかと思うと、大部分の蛙は消えていた。んでさっきのスフィアの魔法のせいだと思う、気持ちいいそよ風が僕の頬を掠めてった。

 

 

 

「やるー」

ヒュウっと口笛を吹くと、照れたように笑いながらスフィアはこっちに駆け寄ってきた。残りの魔物はどうも敵わないと思って逃げ出したらしい。

「去る者は追わず。とにかくなんとかなった!」

馬車の荷台に寄りかかってる僕にピースサインを出しながら、スフィアはうれしそうに胸を張った。

「うむ、先程の風の呪文…何と言ったか。とにかく感心したわい」

「僕もー。いつの間に攻撃呪文なんて覚えたのさ?」

「あー、バギですか?旅立ち直前にギリッギリ師匠に教えて貰えたんです。1つくらい攻撃呪文があってもよかろう、って。詠唱破棄は流石に怖かったけどスペル忘れちゃってて」

ラッキーでした、と言って苦笑した。

…ラッキーだぁ?

「あんたさぁ。まぁいーや、見て」

「?」

僕は片手をスフィアに向けて出す。スフィアは不思議そうな顔で僕の掌を覗き込む。そして、

「メラ」

「きゃあっ!?」

でも、火は出てない。

突然のことにスフィアは咄嗟に目を瞑ったけど、僕の掌からは煙みたいなモノが一瞬出ただけで、すぐ見えなくなっていた。スフィアはゆっくりと目を開け、それを見て僕は苦笑しながら言う。

「これ一番軽い魔法だよ。自分の詠唱破棄ってのがどんだけすごいかわかった?」

「あ、え…うん」

そして一息吐くと、

「本当にびっくりするから。わかった?」

「すいません」

「そういえばスフィア、なんで魔物が出るとわかったんじゃ?」

ジンは首を傾げながら言った。スフィアはあ〜、と曖昧な声を出した後、

「何ででしょうね?」

「…自覚しておらぬのか?」

「そうじゃなくて…なんか変な感じがして、それで」

「前にダーマで修行してたときもこんなことあったよね…えっと、それは気の流れみたいなのに気付くの?」

「…多分?」

そう言ってスフィアははにかむ。あーあ、自覚のない天才、ここに極まれり、だ。

…なんかむかつく。そりゃ本気じゃないけどさ。

代わりにぴし、とデコピンをお見舞いする。

「なにっ!?」

「なんでもないですよ」

「痛いよ!」

「すいません」

…まぁこういうのは楽しいからいいや。

 

 

 

 

そのあと僕らは、そのまま主が眠ってる馬車を使って、ロマリアの賑やかな街の中に戻った。やっぱ荷物が半端なくでかいし、道を行くと大分目立つ。しばらくして宿に着いたけど、この馬車の置き場がなくってオーナーにどうにかしてくれるよう頼むと、裏にスペースがあるからって言われてそこに置かせて貰うことにして、その代わり宿賃弾めって言われた。今ジンはそこで荷物の見張りだ。

 

「なんだよあのオーナー。がめついでやんの〜」

「まぁまぁ…よいしょっ」

スフィアは女をベッドに寝かせて、頭のターバンを解いた。毒が残ってたら大変だから、ってスフィアは自分で調合した毒消しの薬を口に含ませる。

それにしても、ターバンの下はなんと薄い赤色の髪。見たこと無いぞこんな色。スフィアの髪色見たときも驚いたけど、これにもびっくりだ。しかもかなり若いみたいで…こんな子がどーして1人で商売なんてしてんだ?

「何処の人間だろう?」

「さぁ?多分ターバンしてるとこみてもイシスの旅商人っぽいですが」

スフィアはそう言って首を傾げた。

「知らないの?」

「はい。年頃はそんな変わってないみたいなのになぁ…なんでだろ、こんな子いたら絶対目立つのに」

確かに変だ。顔立ちとか見てもスフィアに引けを取らない童顔だし。なんでこんな子が商人なんてやってんだ?

「…ん」

「あ、起きた」

「だーいじょーぶですかぁ?」

「…だれ?」

曖昧な声で、その子は呟く。そしてはっと目を覚ますと、いきなり立ち上ろうとして頭をぶつけた。二段ベッドの下の階で寝てたからだ。

「いたぁー…何すんのさ!」

「なにもしてないし。ほら、上」

「なによこの天井低い部屋!」

…いや、そうじゃなくて。

「あの、二段ベッド…」

スフィアが苦笑しながら言うと少し顔を赤くして、でも僕らをキッと睨んで言った。

「何者なの?」

覚えてない、か。流石にそりゃそうだよな。その子にベッドを出るように言い、そこにあった椅子に座らせる。素直に従ってくれたのはいいんだけど、

「魔物に襲われてるところを助けてここまで運んだ。睨まれる筋合いは無いよ」

「ジャイナ君、なんでそんな言い方するの!あの、えっと、眠ってた前の事って思い出せる?あなた1人で魔物に囲まれてたんだけど…」

「思い出せないわ」

目も合わせようとしないで、つっけんどんに言った。負けじとスフィアも、

「名前は?」

「アザリア。イシス出身旅商人。それがどうかした?」

「いえ…」

苦笑して、僕の方を向いて助けを求めてくる。…てかこれは話とかそれ以前の問題だろうに。相手が拒絶してちゃあお話にならない。アザリアとかいうその商人は、そっぽを向いて一歩も引かないし。相手に聞こえないよう、スフィアが「困ったなぁ」って呟いた。

「あのー、アザリア?」

「何よ」

うっ…むかつくぞ…っと我慢我慢。

「話変わるけどさ、なんで1人で商人なんかやってんの?魔物に襲われたりとか怖くない?」

「うっさいわね、余計なお世話。それより行ってもいい?どうもここロマリアみたいだし、これから私ノアニールに行きたいの。ロマリアの商品卸してこれから行くとこだったんだけど」

…腹立つー。

「じゃあ勝手にむご「ちょっちょっと待って!」」

妙に焦って、スフィアが言う。

「その光は何!?」

するとアザリアは、ああこれ?と言って、スフィアの差す胸の巾着を摘んだ。

「ガラスの人形が落ちてたから、金になるかなーと思って持ってたんだけど。なんだろ、ホントだ光ってる…」

そう言ってアザリアが巾着を開くと、光は凄いスピードで飛び出し、開け放った窓から飛んで出て行った。

 

3人揃ってぽかーんと口を開いて、光の出て行った方向を見る。

 

「出てったね…」

「うん出てった…」

「のっ呑気に言ってないで、さっきのアレ何なのよ!?」

「なんだろね」

「どこかで見た気がするんですけどね…」

「要領得ないわねぇあんたら」

アゼリアは溜息を吐いて、所在なさげに空になってしまった巾着を覗いていた。

「結構気に入ってたのに…なんだって言うの?」

「さぁ…」

スフィアの返事も上の空だ。

と、光がまた戻ってきた。薄いレースのカーテンを揺らし、アゼリアの目の前を通って、

「へぁ?」

ぴたっと、僕の前でその光は止まる。

『なんだ、知った声がしたと思ったらお前かよ』

…ああ?

段々光はそのシルエットを見せ始めた。これって、もしかして、

『また会ったねジャイナ。あとスフィア』

「あっ…」

「「アファ!?」」「スフィア!?」

…ん?なんか椅子を蹴っ飛ばしたみたいな音が聞こえたけど。

『まだこんなとこでぐずぐずして…』

アファが続きを言おうとすると、それをアザリアがスフィアの肩を掴み、遮る。

「あんた、スフィアなの!?」

『何だい?人が話してるってんのにさ』

「えっ…え?」

するとアザリアはじれったそうに顔をしかめ、言った。

「そっか、もうこの子生まれたときには私居なかったな…私の名前、アザリア=エウクレイス!あんたの姉さん!どう?名前くらいは聞いたこと無い?」

すると、スフィアは眉間に皺を寄せてたんだけど、急に大きく目を開いて、

「あっ…あ―――――!!」

アザリアを指差して叫んだ。

「もしかして私が生まれてすぐ家出したっていう!?それでそのまま音沙汰無しで…」

「そう、そうよ!大正解!あーもう、すごく会いたかったんだから!きゃー、さすが私の妹!かぁーいい顔してんじゃなーい?」

アザリアは目をキラキラさせて言うとスフィアに抱きついて、バンバン背中を叩いた。その様子を、アファと僕は呆然と見つめる。

「なぁ」

『何』

「お前の演出失敗したな」

『…黙ってな』

そこで、とんでもないことに僕は気付いた。

あー…「生まれてすぐ家出」って?

「えっと、あの、すごーく気になることがあるんだけど、いいですか」

振り向いたアザリアは、スフィアを羽交い締めにして離さないって体勢になってた。スフィアは苦しそうにアザリアから離れようとしてたけどダメみたいだ。スフィアには悪いけど、そのままで聞く。

「あのー…何歳で家出したんですか?」

するとスフィアとの再会で上機嫌になったのか、さっきのつっけんどんな態度とは打って変わって明るく言う。

「ああ、12の時さ。父親とのケンカが原因で、こんな可愛い子の出産見逃しちゃった」

ねースフィア、と胸の中で髪の毛以外も青くなりつつあるスフィアを覗き込んで言う。

…待て。ちょっと待て。

『12歳ってことは、スフィアの歳と足すと…いくらなんだ?』

「…28?」

すると、アザリアはうれしそうに「正解っ」。

 

はっは。

 

 

「うぇええええええええええええええええ!!??」



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