Something what I can do.7
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ガタゴトと、馬車が揺れる。

アザリアは鼻歌を歌いながら、手綱を握って2頭の馬を器用に操っている。

対照的に、僕らは荷台の脇のでっぱりに腰掛けてぼけーっとゆっくり流れる景色を眺める。ジンに至っては、荷台の上に座って寝てる。

僕も変なカタチの雲をしばらく追ってたけど、流石にもう飽きたからさっきやめた。

なんかこのまま寝てしまいそうだ…っと。

「眠いのは分かるけど、落ちるなよ」

「…ごめん」

ローブの首根っこを掴んでとっさに引っ張り上げると、スフィアは顔を赤くしてぼそっと言った。ふるふると首を振り、でもダメだったらしく、今度は隣に座ってるカームに頭を乗っけてそのまま静かに寝息を立て始めた。

乗っかられた方は溜息を吐いてたけど、別に迷惑じゃないらしくそのままにしてる。

 

兄妹だよなー、あれ。歳は逆なんだけど。

 

2人の様子を眺めてると、カームが変な目でこっちを見る。

…なんだその目は。

そう言ってやろうと思ったけど、その前にカームが声を出した。なんでだか、頬に手を当てむすっとした顔をして。

「なぁ」

「何?」

答えると、むすっとした顔をそのままこっちに向けて言う。

「こいつもそーだけどさ、お前もなんでそんな余裕なんだ?俺なんかあのねーちゃんがなんであんな気前が良いのかさっぱりわかんねぇんだけど」

あ、そっか言ってなかったな。あいつ帰ってきてすぐ出発したし。

 

 

カームが妙に疲れた顔で帰ってきたのは、人通りも少なくなる昼下がり。

マダムがティーとやらをたしなんでおほほと笑う時間帯だ。

その時間帯に僕らは巨大毒カエルと戦い、大臣を剣でゴリゴリしてたということがわかってひとしきり落ち込んだ。

 

で、帰ってきたら増えてる人間、と妖精にちょっと驚いてたけど、どーもアザリアとカームは面識があるらしくそんな混乱してなかった。

最初の一言「あーどうも」だったし。

でも両方とも、お互いの歳を聞いたときはびっくりしてた。
当たり前だ、僕だって未だにアザリアが28って事実を信じられない。
カームは下に見積もりアザリアは喜んだけど、カームもやっぱり下に見積もられてばふっとベッドに倒れ込んだ。

 

んでカームが王に聞いた話を言うと、アザリアがカザーブまでなら送ってやるって言って、今。

 

 

「あの人、スフィアのねーちゃん。名前は聞いただろ?」

「ふーん。…へぁ?」

…間抜けな声出すなよ、気が抜ける。まぁさっきから抜けてるけどさ。

「まーくわしい話は後にするとして。とにかくアザリアのご好意で僕たちこうやって楽してるってわけ。スフィアに感謝だね」

へぇ、と気のない返事をして、カームは視線を僕から遠くの景色に戻した。

 

…緊張してるのかな?

 

 

…まぁ詮索はしないよ。

 

 

 

 

 

『着いたぞガキ共』

無駄にきらきらと光を振りまいて、アファが呼び掛ける。

確かに、カザーブだ。入口のアーチ状の看板にそう書いてある。

見ると街道はここで二手に別れてる。僕らはシャンパーニのある西の山道に行くけど、アザリアはここより北に行ったノアニールって村に続く道を行くらしい。

「じゃ、ここで」

僕が荷台から降りながら言うと、今気付いたみたいにああ、と声を上げる。そして馬車の座席から身軽にひょいっと降り、そのままスフィアに抱きついた。

「無理しちゃダメだからね、特に顔にキズなんか貰っちゃダメよ!?」

「わっわかったから!苦しいってば!」

だけどそんなことは知ったこっちゃないらしく、やっぱりそのままの体勢でキッとこっちを見る。

「この子に何かあったら私が許さないからね!男なら死ぬ気で守りなさいよ!」

「…やだよ」

そう言ったのは、カーム。

 

アザリアは虚を突かれて固まる。その隙を見てスフィアも脱出した。

 

…つか、僕もびっくりした。

 

てっきり苦笑しながら頷くと思ってたからだ。真っ直ぐにアザリアを見て、

「そいつが守られたりすんのは嫌だって言ったんだ。だから、最前線で一緒に戦って貰う。俺たちは仲間で、んで俺はこいつらのリーダーだからな。仲間の言葉は尊重するし、そしてその言葉には責任を持って貰う」

はっきりと言う。

アファはアザリアの側で何やら、にやっと笑った。スフィアも苦しそうに咳払いをして、その後に続く。

「守るとかそういうのじゃなくて、みんな一緒に戦うの。私達が守るのは、戦った先にあるものだし。ね?」

「そうだけど…」

「大丈夫!なんか負ける気しないもん」

戸惑うアザリアににっこり微笑んで、スフィアは言った。

「信じてよ。僕ら強いってわかってるだろ?今度は勇者も居るんだ。負けるワケ無いよ」

「…うん」

僕が言うと、やっと納得したらしい。

アザリアは微笑んで、スフィアの頬にキスをした。

 

「これ。助けてくれたお礼」

そう言ってアザリアが渡したのは、キメラの翼だった。滅多に手に入らない代物だ。

「いいの?」

「いーのいーの。記憶がないのは確かだし、第一こんな立派な妹が嘘なんてつくはず無いじゃない?」

…あ、一応カエル騒動は信じてくれたらしいね。

「じゃ、ありがたく貰っておくよ」

「がんばってね、あのカンダタって男商人の間でもすこぶる評判悪いから。絶対油断しちゃダメよ」

「分かってる」

そんなこと言われなくったって、僕らは身に染みてわかってるよ。

 

 

お別れもほどほどに、アザリアはじゃあね、と言うと、アファを肩に乗せると馬車に乗って行ってしまった。

アファは力尽きてたのを拾って貰ったついでにノアニールまで送ってもらうって言ってたな、そう言えば。どうもイオナズンに全部魔力持って行かれたらしくて、ルーラが不完全で帰れなかったとか。まー、もう関係無いや。

「じゃー、行こうか」

「ああ。もう暗くなってきたけど丁度良いや、闇に乗じて乗り込もーぜ」

カームはにやっと笑って言った。

「エリーさん、絶対助けようね!」

「うん。コテンパンにやっつけちゃおう」

息を吸い込むと少し風の匂いがした。

 

カームが何も言わずに歩き始めた。

僕もそれに続いた。

スフィアとジンが後を付いてくる。

 

後ろも振り返らず、カームは歩く。

闇は次第に辺りを覆い始めた。でも、僕らが歩くことを止めることは無い。

 

…止まれない、よなぁ。

 

エリーだよ、今一番苦しいのは。あいつ自身仲間になりたくて、でもなれなくて。

僕たちの仲間にそんな思いをさせたカンダタを、僕は絶対許さない。

 

コテンパンなんて生優しい…あのクソのせいで僕がボコボコにされたんだ。

その借りを倍にして返してやる。

 

と、ちらっとこちらを見たカームが、苦笑しながら言った。

「お前今すげぇ顔してた」

…あははは。



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あとがき


はーい、終わりです。こっから目一杯スピード上げて、次のカンダタ戦に向かいます。
カームとスフィアが少しでも成長したなぁなんて思って頂けたらこっちのもんです。一応次が序盤の最大の山になると思いますので…ご期待に少しでも添うことが出来れば良いのですが。精進いたしやす。次は「Blight reason」です。
よぉーし、次で死ぬ気でがんばろう。ではでは。

 

 
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