Thief,Magic,etc.4
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それから半日歩くと、レーベの街に着いた。なんていうか…小さな街だ。1時間あれば中心街は完全に廻れそうなくらい。まあそんな用も無いし、一番の目的っていうと…ああ、そうだ、カームの言ってた「不思議老人」だ。

「はっは。わかるかこのアホ勇者」

僕が多分ものすごい微妙な顔で言う。人の少ない通りの端で、4人揃って首を捻ってるというものすごい怪しい状態だ、今。

「しかも誰かも分からないし。絶望的じゃない?」

「いや、なんか王の狸親父は友人だとか言ってたような気が」

「うーん…だったらやっぱ偉い人…ですかね?」

「俺はそうだと思うんだけど」

「一応探してみるしかないんじゃないかのう?」

「うーん…」

まぁ…探そうと思えば探せると思うけど。

「めんどくさ…」

「勇者一行のメンバーが何言ってやがんだ」

「痛いっ」

僕の言葉にカームの蹴りが瞬時に入った。

 

 

と、いうわけで。

「スフィア〜?」

「はい〜?」

「あのー、あれだ」

ふわふわした青い髪を振って、嬉しそうにこちらを見る。

「はしゃぎすぎないでね」

「なっ何言ってるの、ほら聞き込み聞き込み!」

慌てて取り繕って、隣を歩くおじさんにいきなり聞き込みを開始する。おじさんはおじさんで適当な理由付けてさっさと歩いて行っちゃったから、こほん、と咳払いをし、さあ行こうとか何とか言って歩いていく。僕はその後をひょこひょこ付いて歩く。

 

カームの「二手に分かれて探せば多分効率良いぜ」案を受けて、僕らは2班に分かれて動いてる。決め手はジャンケンだったけど。悪ガキで(チビで)ちょっと目つきの悪いカームと一緒だとはっきり言って人に話しかけても逃げられるし、ジンは…なんか本能的にパスだ。ほら、まぁ気にしないの。とりあえず夕方日が落ちる頃にはチェックインしておいた街の宿の前に集合になってる。もし見つけたらその班でその人と接触する、と言う算段。

 

まあいいんだけど…。

そう呟いて僕は1人、苦笑いを浮かべた。立ち並んでる珍しい店に、スフィアは子供みたいに喜んでる。…危なっかしい。気分はお母さんだ。

 

で、歩いてみて思ったのはレーベは人少ないから結構歩きやすいってこと。ときどき人が牛引いて歩いて行ってるだけで、全然魔物とかバラモスとか、知ったこっちゃ無いって感じだ。実際、バラモスという名前を知る人とは、今のところ出会ってない。

 

時間が、とてもゆっくり過ぎてる。

 

アリアハンではそんな時間もなくすぐ出発したから、あんましこういう所歩く時間無かったけど…スフィアのやつ、やっぱダーマでずっと修行してたんだしストレスも溜まってるのかなぁ…。

スフィアがふと立ち止まる。ふるふる震えながらある看板を指差した。

「これって…まさか」

「なに、王の友人の手がかりでもあったの?」

見上げると古風な文字で書かれた木の看板は―――スージー洋菓子店。

がくっ。

「なんで洋菓子!?」

「ん〜…まぁまぁ、ね?」

微笑みながら、僕のローブを掴む。あーなるほど、そのままその店の方へ―――ってこらこら!!

「わっあ、ちょっと、いいけど一体誰が払うってのさ!」

スフィアは意外な力を発揮して、ぐいぐい僕を引っ張っていく。

「さっきのおじさん曰く、ショートケーキがすごくおいしいんだって!」

「何の聞き込みしてるんだ―――!!」

僕の叫びも虚しく、チリンチリンと店の鈴が鳴った。

「いらっしゃい。何名様で?」

店のカウンターからおばさんが言うと、スフィアはうれしそうに二本指を立てた。

僕は黙って財布の中身を確認。

…ゴールドが…あー、ちょっとこれじゃヤバイかなぁ。今日の宿代、薬草、マッチにロマリアまでの食糧とか買わなくちゃいけないもの鑑みて…こりゃ…ヘタしたら今日早くもすっからかんかなぁ…。

ガラスのショーウインドウ越しに目をキラキラさせて品定めするスフィアを見て、思わず苦笑した。

 

「王の友人?」

「はい。私達、そんな人がレーベにいるって聞いて、今街中聞き込みして廻ってるんです」

ケーキを食べ終え、スフィアは亭主のおばさんに言う。

「そんな噂はここにゃあないと私は思うがねぇ…最近この街もめっきり人が減っちまって…聞ける話題は限られてくんのさ」

おばさんはなんだか悲しげな笑いを浮かべた。それを見てスフィアは元気づけようとでも思ったのだろう、少し考えて答えた。

「…あっ、でもこうやっておいしいケーキを静かに食べられるのって、すごく贅沢ですよね!」

…まぁ微妙なフォローだけど、おばさんは今度は嬉しそうに笑ってくれた。

「気に入ってくれたかい?このスージーおばさん特製ショートケーキ!」

「もちろん!」

「やっぱりねぇ。ここのケーキは卵だけは裏の爺さんに格安で貰ってるもんだけど、スポンジもクリームも、もちろんイチゴも自家製さね。手塩に掛けて作ったんだ、おいしくないと困るわ」

「ホント!ホールで2,3個持って帰りたいくらいですっ」

「はっは、そんなことされちゃあこっちも儲かっちゃうねぇ」

「こっちの家計も上がったりだよ」

「うるさいっ」

「おフッ!」

ぱこん、と頭を叩かれる。

…痛い舌噛んだ…!

それで慌てて紅茶を飲んだら熱くて口の中火傷しかけた。

ツイてない、今日エライ僕ツイてない。

「あっはっはっは、仲良いんだねぇ」

「まぁ…結構長い付き合いなんです」

「腐れ縁です」

「…ジャイナ君…?」

「すみません」

スフィアの左手に気が溜まるのを見て、即座に謝った。目が怖いって…なんでこう僕の前だとそんな性格変わったみたいになるんだ。

ひとしきり笑って、スージーおばさんは思い出したように手を叩いた。

「あっ」

「どうしたんですか?」

「そうだ、そうだよ。うん、思い出したんだよ、確か王がこの村を視察に来たときだったかな、この村一の偏屈ジジイとやたら話し込んでたの…ああ、もしかしたらその「王の友人」ってヤツかも知れないわよ?」

あの王様結構その辺は適当だからね、と付け足しながらおばさんは笑う。

でも、そうと決まれば話は早い。

「じゃっじゃあそのおじいさんの居場所分かります?会わなくちゃこの旅が前に進まないみたいなんです」

スフィアが急き込んで聞くと、逆におばさんはきょとんとして言う。

「…そういやあんたみたいな若い子が今時旅なんか…そこの髪がモジャモジャな子なら分かるけど。王だかなんだか、あんたたち一体…何?」

髪がモジャモジャ…くそう、地毛だよ。

「えっとですね、驚かないで下さいよぉ、実は私達ゆモガ」

「気ままな旅で。仲間と一緒に、旅商人のキャラバンについて下働きしながら世界を回ってるんです」

手をぽんとたたき、おばさんは感心したみたいだった。

「なるほどねぇ、若い頃に経験を積むのも良いことだよ。んじゃそのじいさんのことも、商売のことについてかい?」

「そうです、会ってこいって団長に言われてて」

納得したように頷くおばさんを見て、僕は隠れて胸をなで下ろした。すると、手で口を押さえてたスフィアがとんとんと僕の腕を叩くので、ゆっくり手を離してやると、何故か読唇術で話す。

(なんでウソつくの?)

(騒ぎになると大変でしょ、その辺自分の立場わきまえて!)

(なーんだそうなのかぁ…そうだよね、うん)

(分かってくれた?)

(いえっさー)

するとスフィアはちょっと俯いて、残って冷めた紅茶を啜った。

「じゃあ…もうお客さんも入らないと思うから、店じまいしてその爺さんとこへ連れてってあげるよ」

するとスフィアは、とんでも無いという風に首を振った。

「そんな!悪いですよ、私達なんかに」

「いいんだよ、どうせ暇なんだ」

「でも…」

「いーから。お嬢ちゃんちょっと待ってな」

イタズラっぽく笑って、店のカウンターの奥に向かいながら、スージーおばさんは付け足した。

「あ、そのジジイ私の旦那なの」

「へ?」

なんだなんだ、この展開は。

 

おばさんの後を付いて通りを歩き、左、右、また左とクネクネ曲がった細い道に出た。昼過ぎのティータイムを楽しんでるんだろう、紅茶の良いニオイが漂ってきたりして。この辺は魔物も少ないからこんなのどかなんだろうなんて思う。

「おばあちゃん元気かい」

「お陰様でなぁ。スージーさんのケーキが月一の楽しみじゃわい」

「あら?もっと来てくれて良いんだよおばあちゃん」

「ほっほ。娘に止められてな。かわいい娘の頼みじゃ、聞かんわけにもいかん」

世間話だ。スージーおばさんは、この辺じゃ有名な元気印…か?

「あのおばあさんさ、自分の嫁さんがあんまりかわいいもんだからいつも店来るとその話ばっかりするんだよ」

「へぇ…いいおばぁちゃんですね」

「あんたのおばあさんもそうだったろう?」

「…」

「どうしたんだい」

するとスフィアは少し寂しそうに、「顔も会わせてくれませんでした」と言って笑った。スージーさんもすまなそうな顔になる。

「そうかい…悪いこと聞いちゃったね」

「いえ」

お、重い…。つかそんな話、僕だって聞いたこと無かったっての…。

 

そんなやりとりもそこそこに、おばさんはさっさと歩く。何げに速いから付いていくのに精一杯だ。

「ここだよ」

スージーさんが見上げたのは、小さな一軒家。馬が一頭繋がれてるだけの何の変哲もない家。

「さて…」

こんこん、とスージーさんはドアを叩く。

 

しーん。

 

「こぉらジジイ!あたしだよ、帰ったから開けな!」

怒鳴ると、中からも怒鳴り声が聞こえた。

「わぁーっとるわい、ちょっと待っとれっちゅーんじゃ!」

…んぁ?

 

この話し方、この声。

まさか。

「おいおいマジかよ…」

ひくっと、顔の筋肉が引きつる。

「どうしたの?」

「どうもこうもねぇよ…!」

「?」

明らかにさっきとは違う僕の態度にスフィアは首を傾げる。

と。

不意に戸が開いた。

「全くうるさいババアじゃ…っムオオオ!?」

ムオオオ!?

「ジャッジャイナ、我が弟子よ!はるばるダーマから休暇中の儂の元へ!?」

「ちっ違います!」

「さてはアリアハンに来たはええが勇者一行のパーティに入れなんだのじゃな!?良い良い、また儂が一から鍛え直してやるわ!」

「ち〜が〜う〜!!」

「何、あんた達知り合いなの?」

びっくりしておばさんが聞くので、無駄だとは思うが僕は必死に否定する。

「いっいえ全く!びっくりしたなぁ、人違いですよおじいさん」

「ふぉっふぉ、逃がしはせんぞ…蜘蛛の糸 ならず人知らずその見えぬ罠!ボミオスっ」

「あ〜〜…」

走って逃げようとした僕はあっけなくその呪文に捕まり、そのまま部屋の中に連れ込まれた。

 

すると、壁に背をやって立つジンと、正座させられてるカーム。

頭を抱えて、多分こいつらが一番聞きたいだろう言葉を呟く。

「何やってんの…」

「ふむ、あのじいさんからの説教じゃな。なんでそんな長いこと会いに来なかったんだ、みたいな感じでのう…歩いておったら突然捕まった。いやはや、ジパングも他の国も、説教の仕方だけは変わらぬものなのじゃな」

「そりゃそうだろ、でさ、勇者。ホント何やってるの」

「ジャイナ…助けてくれ〜…」

カームは間抜けな顔で言った。


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