Thief,Magic,etc.6
本文へジャンプ Jaina 

次の日師匠とスージーさんは街の出口まで来てくれていた。

「朝も早いのに…すみません」

「いーのいーの、昨日この人心配で寝られなかったみたいだから」

「本当ですかぁ?『ダーマの赤鬼』と恐れられた方も意外と愛弟子には弱いんですね♪」

「…余計なこと言うんじゃないわい!」

スフィアがおどけて言うと、師匠は顔を赤くして怒った。

「あっはっは、仲良くしてくれよ…んじゃ、そろそろ行こうか?」

カームが促すので、挨拶もそこそこにしとく。

「うん、じゃ…行ってきます」

「うむ。死ぬなよ」

「そんな…」

「はっ、縁起でもねぇよ」

カームは僕の言葉を遮って、ちょっと困ったように笑って言う。

「俺も母さんに同じ事言われたっつの」

 

 

 

しばらく歩いたあと。

そんなに険しくはない山道で、

「まぁ…出発したのはいーんだけどよぉ」

カームがうんざりしつつぼやく。

「…うーむ。なかなか鬱陶しくていかんのう」

ジンも嫌そうに顔をしかめる。

「あーもう。言ってる内に来たってば」

僕ももう正直…疲れた。

目の前には、無数のさそりばちの群れと、魔法使いたち。って言ってもこいつらは人間なんかじゃもちろん無くて、魔族で、それもかなりの下っ端らしいけど。

カームが深く溜息を吐く。

「はぁ…しゃーねぇ!んじゃやっか」

「うう、虫は苦手です〜」

スフィアが心底嫌そうな顔をする。あれ?こいつそんなこと言ったことあったっけか?

「虫嫌いだったっけ?」

「イシスにいるサソリって、気持ち悪いし怖いしで私大嫌いだったんです〜…ダーマじゃあんまりそういう魔物出ないから安心してたのに…」

「まぁ…健闘を祈るよ」

がっくり肩を落とすが、気丈にルーンスタッフだけはしっかり握ってる。まぁ何とかしてくれよ。

「来たぞい」

「はいよ」

カームが言うので適当に答えて見てみると、魔法使いはゆっくり近寄ってくる。

「不ー気ー味ー…」

ザコの癖に演出だけは一人前。ザコの癖に。

僕とカームが正面の1,2,3…6体の魔法使いの相手をする。ジンには後に回り込まれたさそりばちの群れを任せた。スフィアは真ん中でジンの援護。

シャン、とカームが剣を抜いた。

「まぁ、洞窟だともっと多いぜ?多分。肩慣らしだと思えよ」

「はいはい。じゃあ行くよ?」

「ん。じゃあ俺右半分な」

「なら僕は左だ」

言って僕は地面を蹴って、一気に敵と距離を詰める。

「紅い音 掻き乱すは沈黙の――」

「遅いね」

首に蹴りを入れるとパキャン、と小気味よい音を立ててそいつの首の骨は折れ、脱力して倒れた次の瞬間、赤い煙の中に消える。

「いいか、魔法ってのはこう撃つんだよ!紅い音 掻き乱すは沈黙の鵺(ぬえ)の悲泣!」

気を集中して、両手に溢れるくらいの火球を作った。

「メラぁ!」

無数のメラを撃って迫ってきていた魔法使いをなぎ倒し、また赤い煙が僕の回りを囲む。って。

「減らないし…」

知らない間にぞろぞろと…やんなっちゃうよな、もう。そう思って、僕はそいつらの方へ駆け出した。

 

うあ――――――――!もう!!

「埒があかねぇよ!」

僕は両手を組んで印を組んだ。

「カームっ」

すると、剣を振るう手を止めてこっちを見る。

「何?」

「こっち来てろ、危ないから」

「?」

不思議そうな顔で、でも相手を鋭く見据えながら僕の隣に来た。印を組んだまま僕は言う。

「さっきから増え続けてるんだよねぇ、こいつら」

「あー…そうだな。あっちのさそりばちは?」

「ジンが応戦してる。大したことはなさそうだよ。それより…ひぃふぅみぃ」

「古い数え方だなぁおい」

カームが苦笑いして呟く。

「うっさいよ。…んー、ざっと20は軽いね」

「どーするよ?剣と体術じゃしんどいぜ」

僕は溜息を吐きつつ言った。

「僕の職業忘れるなよ。放ったら、残りのあぶり出されてきたヤツ仕留めて」

「逃げるヤツは?」

「無視」

「あいよ」

ちゃき、と剣の鍔を鳴らして、カームが構える。それに同調したみたいに、魔法使いが一斉にマジックスペルを唱え始めた。

 

今、だねぇ。

 

大きく息を吸い込んで、印を解いて右手を前に突き出した。

「地に住む嵐 空を求めて暴れ狂う」

翳した先の魔法使いに向かって視線を上げる。

「バイバイ。イオ!」

広範囲で爆発が起き、地面が裂けて飛び散る。砂埃が収まると、被害を受けなかったヤツらが炙り出されていた。

「行ってきます!」

バカ勇者は、剣を抜き放って突貫。ホントバカみたいだなおい。

でもまぁ…これでもう大丈夫だと思う。

「そっちはどうだねジンさん…や…」

振り返って見るとあらまぁ、綺麗な道だこと。

「あー、蜂は?」

気を取り直して僕が聞くと、首を回してジンはとぼけた。

「おらんのう。何処行ったんじゃろうな」

するとスフィアが項垂れて言った。

「ジンさんがやっつけちゃいました。すごいスピードでさそりばちが蒸発していくんですよ…私出る幕無し」

しょぼん、ていうのが一番分かりやすい落ち込み方だなぁ。ジンは口笛吹きながら、「派手な呪文じゃのう」なんて呑気に言ってた。そんだけ余裕があったってことかい。

「…あれ?もうそっちは終わったのか?」

「うむ。良い剣捌きじゃな。誰に師事した?」

「アリアハンの王様。今度はあんたにも教わりたいね」

するとジンはアゴをさすりながら考えておく、と言って笑った。

 

 

それから程なくして、洞窟の入口に着いた。綺麗な泉があったけど、そんなことはこの際どうでも良い。使っていないのが良く分かる、苔だらけの階段を下りると、そこには、

「うえー、キモイ像」

「こらこら、酷い言い方しないで。多分ダーマの四賢者だよ、罰当たっても知らないからね」

「確かに…気持ち悪いですね…」

「ああスフィアまで」

「美的センスを疑うのう」

「ジン、お前が言うかお前が」

 

それにしても、その像がある意外、ここのフロアに変わったところはない。でも確かにこれが誘いの洞窟ってとこで間違いないんだけどなぁ…。

 

ん?

 

カームが、不思議そうにそこの壁をじっと見てる。

「んー…」

「どうかしたんですか?」

スフィアが聞くと、不思議そうな顔を向ける。

「なーなー、ここって人来なくなってからけっこう時間経ってるよな?」

「うん。どした?」

「ここだけ、苔も無くて新しいし、それに」

いきなり剣を抜いて、思いっきり突く。キィンと、澄んだ金属音が響いた。

…でも、近くで良く見ても、壁にはキズ一つ付いていない。

「…これって」

「ウーしびれる。でも・な?石が鉄より固いなんてありえねーし。多分これだろ、魔法の壁って」

「あー…うん、試してみる価値はあるかもね。スフィア?」

「あ、はい」

スフィアが布鞄から魔法の玉を取り出す。

 

前に。

 

青白い「光」が飛び出した。

「ぅあ?!」

スフィアが驚いて目を閉じる。無理もない、離れてる僕だってかろうじて目を開けてられるくらいなんだから。

光は次第に弱まったんだけど、小さな妖精だと分かるまでにしばらく時間がかかった。大きさはあの玉と同じくらいかな、綺麗な、いや綺麗すぎる整った顔をもった女だった。

『んー…おはよ。誰?あのオッサンじゃないね』

その容姿には似合わないようなハスキーな声で、「それ」は言う。

「わあ、かわいい」

「…妖精?図鑑で読んだフェアリーにそっくりだ」

僕らが口々に声を上げるとうんざりしたみたいに、

『誰って聞いてんだけど』

「えっと、あっちが勇者のカーム」

『あー、あのチビ?』

「お前が言うんじゃねぇよ!」

いきなり自分より遙かに小さい妖精にチビ呼ばわりされ、カームは烈火のごとく怒る。けど、その妖精も気にすることなく、壁を睨んで呟く。

『まーいいんだけどさ。あ、あたしはアファ。よろしく、えーと…女?』

「あっ、ハイ、よろしくおねがいします」

急に話を振られてスフィアは焦って言う。…こんな口悪いヤツに敬語なんか使うなよ。

「で?師匠の話によると魔法の玉を使えば壁を破れるって聞いたんだけど、この壁をあんたみたいなのがどうにかしてくれるってわけ?」

僕がイライラした口調で聞くと、アファは眉をひそめてこっちを見る。

『ちっ。口の悪いやつだねぇ』

「お前…ええと、アファほどじゃないって。出来んの?」

『ああ』

すると目の前に飛んできて、小さいながらも小生意気な顔をして言う。

『お前みたいな未熟者にゃ出来ないような荒技になるがな』

「ああ?」

『ま、見てな』

得意げに、壁を見て笑う。

 

でも、むかつきはするけど、こいつは少なくとも師匠の作ったもので。

そいつが、「荒技」?

「やーな予感がしてきましたよカームさん」

「あらやだ私もよジャイナさん」

アファは、クスクス笑いながら僕らの反応を面白がって見てた。

『さて…やるよ。ちょっと下がってな、危ねぇんだ、結構』

言われるがまま、僕らは「ちょっと」下がる。大体3メートルくらい先に青白い光が頼りなく燃えている…次の瞬間、一気にその光が直径1メートルくらいに膨らんだ。

「すごい…さっきの光と同じ」

「ああ、何する気なんだろ」

眩しそうに目を細めて言うスフィアに、嫌な予感がしつつ答える。

 

アファは、さっきとは違った綺麗な歌のような声で唱えた。

 

『地の神欲す あまねく空を 往け 汝(なんじ)欲せば大地は叫ぶ』

 

こ…れ、は。

僕の硬直した脳は言う。これは…。

神話の時代から今までに、数えるほどの人間しか唱えられなかったスペルじゃないのか?

 

…やばいやばいやばい!「ちょっと」じゃ足りないっ!?

「っ…!逃げろみんな!あれは爆裂魔法の最上級スペルだ!」

僕が叫ぶと、みんなやばいことに気付いたのか、一斉に駆け出す。すると、部屋全体に静かな声が木霊した。

 

『イオナズン』

 

「いっ…」

「「イオナズン!?」」

「耳を塞いで目を閉じろ!」

カームとスフィアが見事にハモり、ジンが叫んだ次の瞬間、轟音と共に僕らの体は吹っ飛ばされた。

 

 

しばらくして、アファが言う。

『終わったよ、壁は消えた』

がれきももう飛んでこなくなって、部屋はしんと静まっている。

僕は倒れた体を少し起こして辺りを見渡しながら言う。

「っつー…大丈夫かぁ…?」

「…もう死んだ」

離れたところから声がした。ん、カームは無事、と。

「スフィア〜?」

「なんとか…生きてますけど…ジンさんが」

ジンは事も無げに膝の土を払ってるが、肩から血が溢れている。多分スフィアを庇ったときにでも傷付けたんだろう、結構酷い。

「…大丈夫?それ」

心配そうにカームが聞くと、ジンは顔をしかめて答える。

「ふむ…ちと痛いが大丈夫じゃ」

「すみません、あたしがドジっちゃって」

かなり落ち込んだみたいで、俯いて言うが、ジンは笑って言う。

「気にするな、誰もいきなり最上級魔法が来るとは思うまいよ。お前のせいではないわい。まぁ布があれば血止めになるが」

「でもがれきが傷口に混入してたら大事ですよ…消毒します、見せて下さい」

ジンも素直に座って、スフィアの手当が始まる。うーん、深いみたいだしちょっと時間掛かるかな。スフィアも自分のせいだなんて思わないと良いけど…。

 

それにしても、だ。

 

「君…何者?イオナズンなんて、大地の精霊でもそうそう唱えられないでしょ」

『ふっふーん、あのオッサンに魔力を借りたのさ。この魔法以外じゃこの壁は壊れないようになってんだ』

なるほど。それでか…ってオイ師匠。

「なんでそんな物騒な呪文を…」

僕は頭を抱えるほか、仕方なかった。いくら何でもなぁ…

「イオ使える人間だってそうはいないよ…」

『…まぁ、あの人の趣味だろ。じゃ、そろそろアタシは帰るとするよ』

「帰るって…どこに?」

『ノアニールって知ってる?その近くにあるエルフの森の精霊なんだ。アタシが勝手にあのオッサンに付いていっただけなんだけど』

「…嘘つきやがったなあのジジイ」

何が「少しずつ分けて貰った」だ。おもっくそ一発で補充してんじゃん…。

『じゃね。また会うこともあんだろーね』

「無けりゃ助かるよ」

僕が言うと、意地悪な顔でにっ、と笑ってアファは消えた。

 

 

 

ジンが妙な顔を向けて尋ねる。

「これが…旅の扉か?」

「そだよ」

「う〜ん…なんだこれ」

カームも首を傾げて渦巻を物珍しそうに眺めてた。

 

カビ臭いニオイのする洞窟を抜けたら、ウニョウニョと、気味の悪いオーラが漂ってる部屋だった。そのオーラは、妙な模様の付いた台座に向かって流れ込んでいる。

…この空気は好きじゃない。入口には頑丈な鍵付きの大扉があったが、そこは噂の犯罪道具、いや便利道具の盗賊の鍵で簡単に開いた。エリーも恐ろしいもん渡してくれたよ全く。

「これ…誰から行く?」

僕が聞くと、目をキラキラさせるヤツが2人。

「俺!絶対俺な!!」

「いーえ、私が先に行って安全かどうか見てきますって!」

「俺!」

「あたし!!」

…ガキじゃん…。

「はいはい、じゃんけんしろよ、じゃんけん」

「わかったよ…じゃあスフィア、文句なしの一発勝負だかんな!」

すると自信たっぷりにスフィアも腕をまくる。

「「せーの、じゃんけんぽん!」」

一瞬の沈黙の後。

「負けた…!」

「勝ったー!!」

スフィアが飛び上がって喜び、カームは両膝をついて項垂れる。バカだ、こいつらホントにバカだ。

「じゃあお先に!カーム君♪」

そう言って渦の中に飛び込んだ。心地の良い音と共にスフィアは消える。怖いとかそういう感情は一切無いらしい。

「畜生、一番乗りしたかったのに…」

悔しそうに言って、すぐ後にひゅっと渦に飛び込んだ。

 

さて、と。

残ったのは大人2人なんだけど、さっきからジンが喋ってない。

「どうしたジン?なにか気になることでも?」

すると、今気付いたようにこっちを向き、うろたえる。

「いっいや別にどうって事無いが!?」

「あるじゃん」

なんか様子が変なんだけど…

「スフィアのことでも気にしてんの?」

「いや…違う…それは全く違うんじゃがな…」

そうだよなぁ、キズだってさっきの手当と回復魔法でちゃんと治ったんだもんなぁ。

じゃ、何だ?一体。

「どーしたんさ?」

すると、ジンは神妙な面持ちで答える。

「これはジパングにもなかったからの…ちと怖い…かのう…」

「え?嘘、マジで?」

「わっ笑うな!こんなもの初めて行くからよくわからんのじゃ!そーいうお前はどうなんじゃ!」

「はっは…ああ、僕?僕もそんな好きじゃないけど。酔うからねーこれ。先行きなよ、案外楽かもよ」

「いやいや、儂は…最後に確認しつつ行くからの?」

「いや、あの2人が心配だし、年長のあんたが先に行かないと!」

「いやいや、あの2人の扱いはお主の方が慣れておろう?」

「いやいや…」

長い攻防が続いて、ジャンケンにしようとジンが提案した…その瞬間、

「隙ありっ!」

「なっ」

必殺、足払い!

「お〜ぼ〜え〜て〜お〜れぇ〜…」

「ははは。勝った」

ジンはスレスレで押しとどまろうとしたけど、ゆっくり倒れていく。たぽんだかとぽんだか、とにかく情けない音と共にジンは消えた。

「ふっふ、ジン君。要はここだよここ」

微妙に他人に聞かれたら恥ずかしい独り言を呟く。

「ふっふっふ…っふぅ…」

あー、やだなぁ…

僕もこれ嫌いなんだよなぁ…

でもカームにバカにされたらむかつくしなぁ…。

えい、覚悟決めろ自分!

「でも…やっぱやだなぁ…」

人のこと笑っといて何言ってんだって突っ込みはあえて却下。

すると、渦から…イタチ?

「いーからはよ来い」

カームが海坊主さながらに旅の扉から頭と腕だけを突き出している。

「はーっはっは。勇者の亡霊だぞー」

「何それシャレになんないからこら待ておいカーム怒るよちょっとぅひゃぁっ!」

こっこいつ!?

不意に両足を捕まれて、僕は一気に引きずり込まれる。

「ア――――ッハッハッハッハァ!!」

勇者のアホな高笑いだけが、異次元空間に木霊していた。

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あとがき

そんなこんなでアリアハン大陸脱出です。魔法の玉の設定は、あの玉ひとつでどうにかできんのかよという半ばどうでも良い疑問から生まれた物です。あんな妖精いたら怖いっつーね。じっちゃんキャラ活躍しまくってますが気になさらず(逃げるな(だってヤツらが!))
お次はロマリア編、まずは悪ガキと悪王の対決が見られそうです。




 
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