「どうしてこうなるのか教えてよカーム君…」
「俺が聞きたいよジャイナ君…」
何故だ。
なんで僕たちはこんな森の中を2時間に渡って一生懸命探検してるんだ。
時さかのぼって午後7時。あのときまず王の言うとおりレーベに行こうっていう話でまとまっていた。
そこでそのカームの言う「王の友人」について情報収集して、そのまま宿を取ろうって話には落ち着いて。
さてここからが問題。
何故僕たちはルーラも使わずに歩いてレーベに向かっているのでしょうか?
「1番。カームがレーベに行ったのがずぅ〜っっっと前だから」
ちらっと見ると、ビクッとカームの肩が上下する。だが負けじとカームもぼそりと。
「2番。ジャイナがルーラ使えないから」
今度はこちらが黙り込む番だ。
…あ〜あ。サボるんじゃなかったなぁ…僕はボリボリと頭を掻いた。困ったときの悪い癖だ。直そうとも思わないけど。
そしてスフィアも溜息混じりに呟く。
「正解は?」
「1番と」
「2番です…」
「はぁ…。」
4人全員溜息が重なった。
「なんで、こうなるっ!?」
「知るか!テメエが魔法使いのクセにルーラ覚えるのサボったからだろ!」
「じゃあなんでカームはレーベなんてこんなちっちゃいアリアハン大陸の中にある街にすら全然行ったことが無いんさ!?」
「くっ…」
カームは悔しそうな顔をする。…って本気か。本気で行って無いってことか。
「箱入り息子か」
「黙れジン!!」
唐突に口を開き、見当違いなことを言うジンをカームが怒鳴る。
「あそこにはおっとろしいジジイが居てよ…や、行ったこと無いって訳じゃあ無いんだ、ただいきたくなかったっていうか何て言うか…その…よぉ…」
なんで声が尻すぼまりなんだろ。
よっぽどイヤなことがあったらしいけど、まあ後で揺すってやろう。
「まぁまぁ…もう時間も遅いですし…この辺で野宿にしましょうよ。いがみ合っても仕方ないじゃないですか」
なかなか話の輪に入れないでいたスフィアがおずおずと問う。
確かにもう時刻は10時近くなってきているし、さっきから何度も戦ってるけど、大ガラスに一角ウサギなんかが良く出る。こいつらは単体じゃあ弱いとはいえ夜は大抵魔物の世界だし、僕らが疲れたところに大勢で掛かって来られたら、かなり分が悪いと思うな。
「そだね…カームは多分歩き慣れてないでしょ?」
「そんなわけ…もっもうレーベまで半分くらい来てんだぞ!?」
「ダーメ、無理。顔見てりゃわかるよ。森歩きはそれなりの知識が要るし。それに」
さっきから気になってたけど、なーんかこいつ右足引きずってる気がするんだなぁ。
「…昨日無茶したろ、お前」
腕を掴んで言うと、痛そうに顔をしかめる。
「…してない」
ウソつけ、絶対そうだ。何年の付き合いだと思ってる?昨日の今日だ、前もそうだったけど勇者は強くなくちゃ、とか妙に入れ込むとこあるんだな、このバカ。らしいっちゃらしいんだけどさ。
僕が思うに多分、嫌絶対に秘密特訓。なんかあるたびこいつは真夜中に家を抜け出して隠れて素振りして、走って、腕立て伏せなんかやってる。多分昨日の僕の体術に歯が立たなかったのが気になったんだろうけど。考えすぎだよなぁ…
「自分で言ったじゃんか、魔王退治行くって。長い旅になるんでしょ、だったら今から焦る必要も無いと思うよ?」
「ふ〜む…」
立ち止まって、腕組んで妙に真面目な顔で考え込んでるからちょっと笑える。なんか僕の場合すぐ顔に出るらしく、「笑うな」って突っ込まれた。やっぱポーカーフェイスには向いてないか。
「さぁどーすんだいリーダー」
「ん〜…」
なんか葛藤があるみたいだ。負けず嫌いの性分ってやつだな。この分だと説得するのにしばらく掛かってしま
「悪い、みんな。ちょっと無理だわ。ここで休ませて」
…わないのはこいつが素直なんだか何なんだかなあもう。傍観してた2人にぼそっと漏らした。
「保護者は大変だよ、2人とも」
「むぅ。よくわからんもんじゃの」
「いや、保護者って言うのはどうかなぁ…」
2人とも別々の答えが返ってきた。
「どしたん?」
見てたカームが不思議そうに聞いてくる。んー…良い言い訳は…あ。
「いや、薪はどうしようかなあと」
「ああ、じゃあ俺行くよ」
「む、じゃあ儂も行こう。カームに夜の狩りを教えてやる」
「それは別に良いって!」
「いやいや、なかなかゾクゾクするもんじゃぞ?」
「あんたは一体何なんだ!?」
とかなんとか言いながらカームも嬉々として広葉樹林のなかをさっさと歩いて行った。足引きずりながら。
大丈夫だとは思うけどさ…
やっぱあいつも子供だね、まだ。
あんま遠くに行かなきゃ良いけど、まあジンが付いていったのは正解かね。
僕はようやくほう、と軽く息を吐く。白い息が上に向かって出た。
夜も深まってきたし、カンテラを持ってる手が少しかじかむ。
「我ながら咄嗟の言い訳に強いなあ」
「何言ってるんですか、もう」
カーム君大丈夫なのかな、と言って、木の根本に丁度良い寝るとこがあったらしく、スフィアはそこにある小石をひょいっと放った。
さて、僕の仕事が無くなったけどどうしようかな。
ん〜。
取り敢えずぼーっと立っているか。
「あ、水汲んできたら?」
スフィアの機転により、ぼーっと立ってる時間、約5秒で終了。ちぇ、結構綺麗な星空なのになぁ。
しぶしぶ携帯用の水筒を持って、さっき歩いてたときに見えた小川の方へ僕は歩いた。
ぱちぱちと、焚き火が爆ぜている。今見張り番は僕。みんなすーすー寝てる。ジンは木に腰掛けて座ったまま寝てるけど。
そういや、このジンって男は面白い。本当に狩ってきたウサギにはびっくりしたけど、それを捌いてさっさと煮込み料理を作った腕にも驚いた。
やばいな、ジン使えるよ。
存在が万能包丁みたいなヤツだ。
戦闘もあの「刀」とかいう伝統的なジパングの剣でしてるけど、はっきり言ってめちゃくちゃ強いし。僕でさえ剣閃がまるで見えない。
剣だけなら実力はカームの遙か上っぽいなこりゃ。
カームも狩りの楽しさに目覚めたらしく、投石で一匹ウサギを仕留めたらしい。
投石。
投石て。
原始人の狩りじゃないか。
一応ジンの言う「極意」を教わったらしいけど。なんのこっちゃ…
「見ろよ、ジンのよりでかいぜ!」
「ガキかよ、はしゃぐんじゃない」
僕が言うと、なんだよ、と不満げに言ってカームはジンにウサギを手渡した。それを軽快に捌くジンを少し険しい目で見るスフィア。あ、こいつウサギかわいいから好きなんだったかな。
でも喰うときは一番良く食べてたけどね、すっごい美味そうに肉ばっかり。ダーマからの付き合いだけど、やっぱり顔に似合わず大食らいだねこいつ。スフィアの幸せそうな寝顔を見つつ思う。
まぁとにかく、すごいなジパング人って。
ジンに限ったことかもしんないけど…。あ、一角ウサギではないからそこんとこよろしくね。
むぅ。それにしても、だ。
見張りって暇だね。
…あと2時間もやんなきゃいけないなんて。
大きなあくびが一つ、僕の意識と関係なく出てくる。
…暇だ。
こんな暗いとこで本は読む気にならないし。
「ちょっと久しぶりにギター、弾くかな」
独り言を言って、僕はローブの中に隠してあったギターケースを取り出した。
僕が取り出したのは普通より小振りのクラシック・ギター。
ダーマでのしんどい修行の後の休憩時間に師匠に教えて貰ったものだ。
音楽は人を幸せな気分にさせるんだよ、なんてこといってたっけかな。まあそんなことは置いておいて。頭の中にもう全部入ってる旋律をゆっくりと弾く。みんなを起こさないようにしなくちゃってことで弱めに、でも気持ち込めて。
僕のギターは、久しぶりにもかかわらず素直に音色を奏でてくれた。
…でも前から思ってたけど、なんかもの悲しい曲なんだなぁ、これ。
師匠がギターの盛んなポルトガ近くの出身だったからクラシック・ギターなんて教えてくれたんだろうけど、愛やら情熱やらが題名なのが多い中でこれは「人生」。
暗っ、とか引かないでくれよ、なんか、今弾くならこれが一番なんだ。
悲しげな旋律だけど、その中には作者が込めた人生に対する希望が隠れている、カンジ。弾いてても、なんとなく、ちょっと気分が落ち着くっていうか、やっぱり僕の好きな曲だ。
「ギター弾きとは。いやいや珍しいこともあるモノだな」
いきなり誰かに声を掛けられて驚いて後ろを振り返ると、白髪が目立つ、小柄な初老の男が立っていた。
…全く気配無かったんだけど。
いきなり強敵…か?
「誰?」
「ああ、敵意があるような者じゃない。話をしたいだけだ」
少し険を潜めた声で僕が聞くと、その男は笑みと共に言った。
「話?」
一単語、再び。良く分からない人間とは最小限にしか話したくないしね。
「うん。そこで寝ている勇者に関するものだよ」
「こいつが勇者って知っているってことか?」
こくりと頷いて、その人は続けた。
「あそこ…アリアハン大陸の真ん中にぽつんと島があって、そこに塔があるのはわかるだろう?」
「あー、ナジミの塔ね。知ってるよ」
なんてったって10歳までアリアハンにいたんだ、そんなことはとうの昔に知っている。
「そこの住人だ、私は」
…ふぅん。そーですかい。
それは知らなかったな。
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